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錯覚  作者: 手絞り薬味
21/47

夫13

 週に二度程、俺は直接由香里を訪ねる。

 いきなり毎日訪ねて警戒されたくないので、後は今までと同じように、影から由香里を見守った。


「来週、手術なんです」

 お婆さんの具合を訊いたら、由香里はそう言った。

 具体的な日時をさりげなく聞き出し、名残惜しいが由香里の家を出る。

 外に出て振り返ると、由香里がカーテンの隙間から俺を見ていた。

 手を振ると由香里も小さく手を振ってくれる。

 なんて可愛く、いじらしいのだろう。

 ずっと見ていたいが、俺は未練を振り切って車に乗った。





 由香里の祖母の手術の日、俺は仕事を休んだ。

 朝、家を出る由香里を見送り、俺も車で病院に向かう。

 大勢の患者に紛れて待っていると、由香里がやってきた。

 緊張した面持ちで、真っ直ぐに病棟エレベーターに向かって歩いて行く姿に、心が締め付けられる。

 大丈夫、きっと手術はうまくいく。

 由香里の背中に語り掛け、俺は暫くその場に留まった。





 手術開始から一時間後、俺は近くのコンビニで買ったジュースを持って、由香里が居るであろう待ち合い室に行く。

 そして、予想通りの場所で由香里を見つけた。

 壁をじっと見つめる由香里は、こんな時に不謹慎だが、美しい。


「由香里ちゃん」


 声を掛けると振り向き、大きな目を更に見開いて、俺を見つめる。

「坂本さん・・・」

「仕事、早く終わったんだ。今日手術だって言ってたから病院に寄ってみたんだけど、会えて良かった」

 俺がジュースを差し出すと、由香里は礼を言ってそれを受け取った。

 俯く由香里の横に、大胆にも俺は座る。

 長い睫毛や形の良い唇を間近で見つめ、胸が高鳴る。

 そうして見つめていたら、由香里が不意に顔を上げ、壁に掛かっている時計を見上げた。

 いつの間にか数時間が経っていたようだ。

 不安そうな表情で、再び俯く由香里。

 思わず、その左手を握りしめる。

 由香里は目を見開いて俺を見たが、何も言わなかった。

 俺は由香里の細く冷たい指先を、自らの熱と想いを込めるように握り続けた。


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