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錯覚  作者: 手絞り薬味
20/47

妻8

 週に二度程、坂本さんはうちに来る。


「変わりない?」

 私の顔を見ると、坂本さんはまず始めにそう訊く。

 学校は?お婆さんの容体は?

「来週、手術なんです」

「そう。君も無理しないようにね」

 玄関でほんの少し会話して、坂本さんは帰る。

 決して部屋に上がろうとはしない。

 玄関の鍵をかけて、道路に面した窓のカーテンの隙間から外を見ると、坂本さんがこちらを振り向いて手を振る。

 私も小さく手を振ると、坂本さんは車に乗って帰っていった。





 祖母の手術の日―――――。

 私は学校を休んで、病院に来た。

 手術室に入る祖母を見送り、待ち合い室に行く。

 本を持って来たが読む気にはなれず、只々ボーっと壁を見つめていた。

 そして一時間が経った頃、不意に聞こえた声に、私は驚いた。


「由香里ちゃん」


 振り向いた私の目に飛び込んできたのは、坂本さんの顔。

「坂本さん・・・?」

 どうしてここに・・・。

「仕事、早く終わったんだ。今日手術だって言ってたから病院に寄ってみたんだけど、会えて良かった」

 坂本さんは私の隣に座り、コンビニの袋からジュースを取り出した。

「ありがとう、ございます」

 目の前に差し出されたジュースを手に取るが、飲む気にはなれず、ペットボトルを握りしめて俯く。

 そんな私に、坂本さんは何も言わない。

 二人共無言のまま、ただひたすら時が過ぎるのを待った。

 そして・・・数時間後、チラリと時計を確認する。

 予定の時間を過ぎている。

 どうしたのだろう・・・。

 最悪の場面を想像し、そんな自分に嫌悪を感じる。

 その時―――――。

 そっと伸びてきた手が、私の左手を握りしめる。

 顔を上げると坂本さんと目が合う。

 夏がすぐ近くまで来ていたこの日、冷房のきき過ぎた病院内で、坂本さんの手だけが暖かかった。


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