妻7
眩しい光が私達を照らす。
目の前で車が停まり、運転席から人が飛び出してきた。
「何をしている!」
私を拘束していた男子がビクリと震えた。
その人は、男子の腕を掴み、私から引き剥がした。
「あ・・・」
見覚えがある・・・。
私を助けてくれた人は、以前ジュースをくれた男だ。
力が抜けた私は、ヘナヘナとその場に座り込んだ。
「大丈夫か?」
男は私の腕を掴み、立たせる。
あ・・・・・。
不意に何かを思い出しそうになったが、それが何だったか分かる前に、男は私に言った。
「家に入って、鍵を閉めて。俺が戻ってくるまで、誰か訪ねて来ても決してドアを開けないように。早く」
男に背中を押され、私は訳が分からないまま、鍵を開けて家の中に入った。
外から揉める声が聞こえたが、すぐに静かになり、車が走り去った。
どれくらいの時間が経ったのかは分からないが、車の音がして、家の前に停まる。
チャイムが鳴り、玄関に座り込んでいた私は、恐る恐るドアに近付く。
「あの・・・、さっきの者だけど」
先程の男・・・。
普段なら、警戒して開けないドアを、私は簡単に開けてしまう。
私の顔を見た男は、ホッとした顔をして微笑んだ。
「大丈夫か?恐かったな」
そして私の頭を撫でる男に、私はまた何かを思い出しそうになる。
何だろう・・・。
「これを」
差し出された紙。
「君に二度と近付かないって誓約を書かせた。相手の親にも厳重に注意するよう言っておいたから」
男はそれに、胸ポケットから取り出した小さな紙を添えた。
「俺の名刺。そうだ、名前言って無かったね。俺は坂本篤。携帯の番号も書いてあるから、もし何かあったら電話して」
私の手に紙を握らせ、男は首を傾げた。
「家の人は、居ないのか?」
私は頷いた。
「そうか。出来れば今回の事を、説明したいんだけど」
え・・・?
「駄目・・・!」
私は咄嗟に答えた。
病気の祖母を、心配させる訳にはいかない。
「しかし・・・、これからの事もあるし」
これから?
「気を付けないと、同じ事がまたいつ起こるか分からないよ。今回は、偶々俺が通り掛かったから良かったけど・・・」
「・・・・・!」
ゾクリと寒気を感じ、私は自分を抱き締めた。
またこんな事が・・・?
「近くに、頼れる人は居る?」
近所の人とは挨拶をする程度の付き合いだし、友人の家は遠い。
小さく首を振る私に、男―――――坂本さんは、眉を寄せる。
「家の人は、帰って来ないの?」
「入院・・・してる」
「入院?病気なのか。退院の予定は?」
「まだ・・・」
坂本さんは、「そうか・・・」と言って、額に手を当てた。
「じゃあ、戸締まりをしっかりして、暗い時間には絶対に外に出ないように。いいかい?」
頷いた私に少しだけ笑顔を見せて、坂本さんは続けた。
「俺は仕事でよくこの近くに来るから、帰りに寄るよ」
「え・・・?」
どうして?
「成り行きとはいえ、助けたんだ。乗りかかった船・・・というか。それに、男の出入りが無い家は、狙われるよ。親戚のおじさんとでも思ってくれればいい」
狙われる・・・?
「怖い時や困った時は、いつでも電話しておいで。出来る限り力になってあげるから」
私の頭をポンポンと叩く坂本さん。
その優しい瞳に、私は安堵した。
それから坂本さんは、時々家に来るようになった。