表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錯覚  作者: 手絞り薬味
18/47

妻7

 眩しい光が私達を照らす。

 目の前で車が停まり、運転席から人が飛び出してきた。


「何をしている!」


 私を拘束していた男子がビクリと震えた。

 その人は、男子の腕を掴み、私から引き剥がした。

「あ・・・」

 見覚えがある・・・。

 私を助けてくれた人は、以前ジュースをくれた男だ。

 力が抜けた私は、ヘナヘナとその場に座り込んだ。

「大丈夫か?」

 男は私の腕を掴み、立たせる。


 あ・・・・・。


 不意に何かを思い出しそうになったが、それが何だったか分かる前に、男は私に言った。

「家に入って、鍵を閉めて。俺が戻ってくるまで、誰か訪ねて来ても決してドアを開けないように。早く」

 男に背中を押され、私は訳が分からないまま、鍵を開けて家の中に入った。

 外から揉める声が聞こえたが、すぐに静かになり、車が走り去った。





 どれくらいの時間が経ったのかは分からないが、車の音がして、家の前に停まる。

 チャイムが鳴り、玄関に座り込んでいた私は、恐る恐るドアに近付く。


「あの・・・、さっきの者だけど」


 先程の男・・・。

 普段なら、警戒して開けないドアを、私は簡単に開けてしまう。

 私の顔を見た男は、ホッとした顔をして微笑んだ。

「大丈夫か?恐かったな」

 そして私の頭を撫でる男に、私はまた何かを思い出しそうになる。

 何だろう・・・。

「これを」

 差し出された紙。

「君に二度と近付かないって誓約を書かせた。相手の親にも厳重に注意するよう言っておいたから」

 男はそれに、胸ポケットから取り出した小さな紙を添えた。

「俺の名刺。そうだ、名前言って無かったね。俺は坂本篤。携帯の番号も書いてあるから、もし何かあったら電話して」

 私の手に紙を握らせ、男は首を傾げた。

「家の人は、居ないのか?」

 私は頷いた。

「そうか。出来れば今回の事を、説明したいんだけど」

 え・・・?

「駄目・・・!」

 私は咄嗟に答えた。

 病気の祖母を、心配させる訳にはいかない。

「しかし・・・、これからの事もあるし」

 これから?

「気を付けないと、同じ事がまたいつ起こるか分からないよ。今回は、偶々俺が通り掛かったから良かったけど・・・」


「・・・・・!」


 ゾクリと寒気を感じ、私は自分を抱き締めた。

 またこんな事が・・・?

「近くに、頼れる人は居る?」

 近所の人とは挨拶をする程度の付き合いだし、友人の家は遠い。

 小さく首を振る私に、男―――――坂本さんは、眉を寄せる。

「家の人は、帰って来ないの?」

「入院・・・してる」

「入院?病気なのか。退院の予定は?」

「まだ・・・」

 坂本さんは、「そうか・・・」と言って、額に手を当てた。

「じゃあ、戸締まりをしっかりして、暗い時間には絶対に外に出ないように。いいかい?」

 頷いた私に少しだけ笑顔を見せて、坂本さんは続けた。

「俺は仕事でよくこの近くに来るから、帰りに寄るよ」

「え・・・?」

 どうして?

「成り行きとはいえ、助けたんだ。乗りかかった船・・・というか。それに、男の出入りが無い家は、狙われるよ。親戚のおじさんとでも思ってくれればいい」

 狙われる・・・?

「怖い時や困った時は、いつでも電話しておいで。出来る限り力になってあげるから」

 私の頭をポンポンと叩く坂本さん。

 その優しい瞳に、私は安堵した。



 それから坂本さんは、時々家に来るようになった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ