妻6
「付き合って欲しい」
学校からの帰り道、呼び止められて、告白された。
「ごめんなさい」
今、それどころではないの。
私はよく、告白される。
見た目だけは、まあまあ良いからなのだろう。
話した事もろくにない相手と、どうして付き合おうなんて思うのだろうか。
私には、今一つ理解出来なかった。
静かな廊下を、祖母の病室まで歩く。
「こんにちは」
隣のベッドの人に挨拶しながら祖母の元に行くと、今日は少し具合が悪そうだった。
「由香里・・・」
「しんどい?」
「ちょっと熱が出ただけだよ」
負担にならぬよう、早く帰ろうか・・・。
そう思っていると看護師さんがやってきて、先生からお話があると言われた。
忙しい先生を待って、やっと話を聞くと、手術の日が決まったと言われた。
「宜しくお願いします」
それ以外、何と言えばよいのか。
祖母の汚れた寝間着などを袋に詰めて、病室を後にする。
外はもう暗くなっていた。
もうすぐ家に着く。
その時、誰かが自宅の前に居る事に気付いた。
え・・・?
恐る恐る近付くと、それは夕方告白してきた男子だった。
彼は私に気付くと、「中西!」と大きな声で呼んだ。
何故私の家を知っているのか・・・。
気味が悪い。
逃げ出したい気持ちになったが、何処にも避難出来る場所など無い。
そうこうしているうちに、彼は私に近付いて来る。
「中西、俺と付き合ってくれ」
それはもう断った筈。
だいたい、私はこの人の名前さえ知らない。
「・・・無理」
「どうして!」
・・・何?分からないの?
「こんな、家まで押し掛けられても困る」
本当に迷惑。
「俺の何がいけないんだ?」
「帰って」
横を通り過ぎようとしたら、腕を掴まれた。
「やめて!」
「中西!」
何なのだろう、この人は。
掴まれた腕を振り解こうとすると、更にもう片方の腕まで掴まれる。
洗濯物の入った袋が、道路に落ちた。
「嫌!」
強引に引き寄せられて、揉み合いになる。
「あ・・・!」
腕に痛みが走る。
「痛い!やめて!」
恐怖が背中を這い上がる。
助けを呼ばなければ危険だと思い、叫ぼうとした瞬間、口を手で塞がれた。
嫌・・・!
暴れても適わない。
私はどうなってしまうのか。
その時―――――。
眩しい光と共に、一台の車が近付いて来た。