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錯覚  作者: 手絞り薬味
15/47

妻5

 祖母が、入院した。


 裕福ではないが、それなりに生活は出来ていた。

 だがしかし、もっと切り詰めていかなくてはならないのだろう。

 高校三年生の私は、少し前まで受験生だった。

 先生はしきりに『勿体ない』と言うが、進学は諦めた。

 一流大学に行ける頭がある訳ではないのに・・・。

 先生が求めるものは『合格』だが、私が求めるものは『生活していけるだけのお金』なのだ。





 病院の祖母を見舞った帰り、私は力なく公園のベンチに座る。


 『手術』


 祖母が傷付く事よりも、お金の心配をしてしまう私は、酷い孫だ。

 保険はどうなっていたか?

 通帳に後いくら入っているか?

 特別な理由があれば、学校公認でバイトが出来る筈だ。

「・・・・・」


 一人になるのは嫌だ。


 両手で顔を覆う。

 真夏に近い、照りつける日射しにクラクラとする。

 この先、どうしようか?

 どうすれば良いのか・・・。

 その時、不意に頭上から声が聞こえた。


「気分が・・・悪いのか?」


 顔を上げると、そこに見知らぬスーツ姿の男が立っていた。





「ちょっと、待っていて」


 男はそう言うと、近くの自販機でジュースを買って戻ってきた。

「飲めるか?」

「・・・・・」

 渡された数本のペットボトル。

 ・・・勿体ない。

 家に帰ればお茶があるから、わざわざ高いジュースを買う必要など無かったのに。

 親切をこんな風に思ってしまう私こそ、病気だ。

「ありがとうございます」

 礼を言い、キャップを開けようとするが、力が入らない。

「貸してごらん」

 私がジュースを渡すと、男はキャップを開けてくれた。

「・・・ありがとうございます」

 喉を流れる甘い液体。

 そういえば、ジュースなんて久し振りに飲んだ。

「美味しい」

 呟いた私に、男は目を細める。

「良かった。気分が悪いなら、送って行くよ。家は何処?」

「あ・・・、その、大丈夫です」

 見知らぬ男に付いて行く程馬鹿ではない。

「そう、じゃあ」

 去って行こうとする男に、私は慌てて声を掛けた。

「これ、ジュース・・・!」

「あげるよ」

「・・・・・」

 こんなに?

 でもまあ、くれると言うのだから、もらっておこう。

 太っ腹な人だ。


 私はジュースを鞄に突っ込み立ち上がる。

 ・・・重い。

 だが置いて行くなんて勿体ないので、気合いを入れて肩に鞄を掛けて、駅までの道を歩いた。


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