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錯覚  作者: 手絞り薬味
13/47

夫9

 時々、俺は由里子の墓に行った。

 仕事が終わった後、ふと由里子に会いたくなると、車を走らせた。

 そして、花を供える事も、手を合わせる事さえもせず、ただただ墓の前に立っていた。





 一年後の命日―――――。

 仕事を早く切り上げ、俺は由里子の墓に向かった。

 駐車場から墓地へ行った俺は、そこに既に先客がいる事に気付く。

 由里子の母親・・・。

 そうか、来ていたのか。

 子供は一緒にいないのかと周りを探すと、手桶に水を汲んでいた。


 見てみたい、由里子の子の顔を。


 俺は子供にそっと近付く。

 子供は蛇口をひねって水を止め、手桶をグイッと持ち上げた。

 重いのか、よろめいた・・・と思ったら、辺りに水をぶちまけながら、転ける。


「―――――!!」


 膝を押さえるその姿に、俺は思わず子供に駆け寄った。


「痛ぁ・・・」


 怪我をしたのか!?

 腕をグイっと引っ張ると、驚いた子供と目が合う。

「・・・・・」

「・・・・・」


 ・・・由里子が、居た。


 生きていた。

 由里子は子供の中で、生き続けていたのだ。

 幼くはあるが、由里子と同じ顔。

 俺を見つめる大きな瞳。


 俺は由里子を見付けた。


 零れそうな涙を堪え、子供を立たせて頭を撫でる。

 柔らかい髪。

 抱き締めたい気持ちを必死に押さえ、その場を離れる。

 あの子の名前は・・・、そうだ『由香里』だ。

 名前までそっくりな二人・・・。


 また、会いに来る。

 由香里の中の由里子に。


 それから時々、俺は由香里を見る為に、車を走らせた。


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