夫9
時々、俺は由里子の墓に行った。
仕事が終わった後、ふと由里子に会いたくなると、車を走らせた。
そして、花を供える事も、手を合わせる事さえもせず、ただただ墓の前に立っていた。
一年後の命日―――――。
仕事を早く切り上げ、俺は由里子の墓に向かった。
駐車場から墓地へ行った俺は、そこに既に先客がいる事に気付く。
由里子の母親・・・。
そうか、来ていたのか。
子供は一緒にいないのかと周りを探すと、手桶に水を汲んでいた。
見てみたい、由里子の子の顔を。
俺は子供にそっと近付く。
子供は蛇口をひねって水を止め、手桶をグイッと持ち上げた。
重いのか、よろめいた・・・と思ったら、辺りに水をぶちまけながら、転ける。
「―――――!!」
膝を押さえるその姿に、俺は思わず子供に駆け寄った。
「痛ぁ・・・」
怪我をしたのか!?
腕をグイっと引っ張ると、驚いた子供と目が合う。
「・・・・・」
「・・・・・」
・・・由里子が、居た。
生きていた。
由里子は子供の中で、生き続けていたのだ。
幼くはあるが、由里子と同じ顔。
俺を見つめる大きな瞳。
俺は由里子を見付けた。
零れそうな涙を堪え、子供を立たせて頭を撫でる。
柔らかい髪。
抱き締めたい気持ちを必死に押さえ、その場を離れる。
あの子の名前は・・・、そうだ『由香里』だ。
名前までそっくりな二人・・・。
また、会いに来る。
由香里の中の由里子に。
それから時々、俺は由香里を見る為に、車を走らせた。




