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錯覚  作者: 手絞り薬味
12/47

夫8

 由里子の命日―――――。

 俺は由里子の眠る地に、車を走らせる。

 意外にも俺の住む街から近い場所に、それはあった。

 車を駐車場に停め、由里子の母親から聞いた目印を頼りに中西家の墓を探すと、これも簡単に見付かった。

 あまりにも呆気ない、そして冷たい対面。

 由里子は骨となり、この石の下に居る。

 小さな欠片だけでいいから、連れて帰りたい。

 そんなささやかな願いさえ、叶わないのだろう。

「・・・・・」

 あの時、強引に由里子を連れ去れば、こんな事にはならなかったのだろうか。

 由里子の笑顔と子供の居る家庭が、築けたのだろうか。

 そんな事を考えながら、俺は墓の前にずっと立っていた。





 何時間そうしていたのか、気が付けば夕方になっていた。

「・・・・・」

 いつまでもここに居られない事くらい、俺だって分かっている。


 また、会いに来る。


 心の中で語り掛け、俺は駐車場へと向かう。

 その途中、未練がましく振り返った俺は、墓地に向かって歩いて来る二人連れに気付いた。


 大人と子供。


 まさか・・・。

 そんな偶然あるのか?いや、今日は命日なのだ。

 俺がじっと見ていると、二人は中西家の墓の前に立った。

 やはり・・・そうなのか。

 遠くて顔は分からないが、あれが由里子の子供・・・。

 由里子を連れ去る力があれば、あの子が俺の子になっていた。

 由里子の子は、墓に手を合わし、しかしすぐにそれをやめて周りを見渡した。


「・・・・・!」


 目が・・・合ったような気がした。

 由里子の子が、祖母の袖を引く。

 俺は慌ててその場を去った。

 よく考えれば後ろめたい事をしている訳ではないのだから、逃げる必要など無く、由里子の母親や子に挨拶をしても良かったのかもしれない。

 しかし何故か、俺はその時逃げなければいけないような気がしたのだ。


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