夫8
由里子の命日―――――。
俺は由里子の眠る地に、車を走らせる。
意外にも俺の住む街から近い場所に、それはあった。
車を駐車場に停め、由里子の母親から聞いた目印を頼りに中西家の墓を探すと、これも簡単に見付かった。
あまりにも呆気ない、そして冷たい対面。
由里子は骨となり、この石の下に居る。
小さな欠片だけでいいから、連れて帰りたい。
そんなささやかな願いさえ、叶わないのだろう。
「・・・・・」
あの時、強引に由里子を連れ去れば、こんな事にはならなかったのだろうか。
由里子の笑顔と子供の居る家庭が、築けたのだろうか。
そんな事を考えながら、俺は墓の前にずっと立っていた。
何時間そうしていたのか、気が付けば夕方になっていた。
「・・・・・」
いつまでもここに居られない事くらい、俺だって分かっている。
また、会いに来る。
心の中で語り掛け、俺は駐車場へと向かう。
その途中、未練がましく振り返った俺は、墓地に向かって歩いて来る二人連れに気付いた。
大人と子供。
まさか・・・。
そんな偶然あるのか?いや、今日は命日なのだ。
俺がじっと見ていると、二人は中西家の墓の前に立った。
やはり・・・そうなのか。
遠くて顔は分からないが、あれが由里子の子供・・・。
由里子を連れ去る力があれば、あの子が俺の子になっていた。
由里子の子は、墓に手を合わし、しかしすぐにそれをやめて周りを見渡した。
「・・・・・!」
目が・・・合ったような気がした。
由里子の子が、祖母の袖を引く。
俺は慌ててその場を去った。
よく考えれば後ろめたい事をしている訳ではないのだから、逃げる必要など無く、由里子の母親や子に挨拶をしても良かったのかもしれない。
しかし何故か、俺はその時逃げなければいけないような気がしたのだ。