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錯覚  作者: 手絞り薬味
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妻1

この作品には、アブノーマル(ストーカー風)な部分があります。

暗くてイタくてキモくて死にネタもある話です。

嫌悪を感じる方は、回避をお願いいたします。



「行ってらっしゃい、あなた」


 笑顔で会社に行く夫を見送る。


「ああ」


 素っ気ない返事をして、夫は出て行く。

 私は玄関の鍵を閉め、ベランダに走る。

 すると、駅に向かう夫の姿が見えるのだ。

 じっと見ていると、不意に夫は振り向き、私に軽く手を振る。

 私が手を振り返すと、夫はまた前を向き、足早に去って行く。

 平日の朝、まるで決められているかのように、二人はこれを繰り返す。


 そして、今日は火曜日―――――。


 私は夫の部屋に入り、クローゼットを開ける。

 その奥に、目的のものはある。

 積まれた荷物の一番下。

 几帳面に整理整頓されている物を一つずつそっと動かし、隠されている箱に辿り着く。

 その箱を部屋の真ん中に持って行き、蓋を開けた。


 現れる、沢山の写真。


 その一枚を手に取ると、若い頃の夫と、その隣で微笑む私にそっくりな女。


 ビリビリビリ・・・。


 写真を破る。

 細かく、細かく。


 やがて夫の顔も女の顔も分からなくなると、私は箱を元通りに隠し、その上に荷物を置いていった。

 クローゼットの扉を閉め、私は写真だった物を掌で包み、夫の部屋を出る。

 キッチンに行って、握っているゴミを、そこにある大きなゴミ袋に捨てた。

 袋の口をギュッと縛って左手に持ち、玄関ドアから廊下に出て、ノロマなエレベーターを待って下に行く。

 足早にマンションのエントランスを抜けて、ゴミ捨て場に袋を置いた。


 『可燃ゴミの収集は火曜日と金曜日です』


 貼り紙に書いてある言葉に、口角を上げる。

 ええ、知っているわ。


「あら、坂本さん。おはようございます」


 掛けられた声に、私は笑顔で振り向く。

「おはようございます。今日も暑くなりそうですね」

「本当に。こう毎日暑くちゃ嫌になるわよね」

「そうですね」


 たわいもない会話をして、部屋に戻る。

 洗濯物を干して掃除して、ワイドショーを見て・・・、そして夫が帰って来る。


「お帰りなさい」

「ああ」


 素っ気ない返事をして、夫は自分の部屋に入る。

 私はリビングに行き、食事の準備をして夫を待った。

 そして二人で食事をして、順番にお風呂に入って、一つのベッドで眠る。


「おやすみなさい」

「ああ」


 背中を向けて眠る夫を見つめながら、私は眠りについた。



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