魔術師オーウェル
仕込みナイフだ。語るは遅いが動作は速い。鋭い悲鳴。王子は既に刺客の手によって地面に伏していた。
『王子』
従者は叫んだ。続けて騎士が
『魔術師どのを呼ばねば』
と情けない声を上げる。その様子を遠くで男が見ている。とんがり帽子に黒いローブ。揺れる金の髪。魔術師である。彼は冷酷に
「王子なんて死ねばいいんですよ」
と呟く。
『魔術師どの』
『魔術師はいるか』
遠くで叫び声が聞こえる。だが、魔術師は疲弊していた。彼は杖をつき、しゃがみこんでいる。実は、彼は既に別の場所で五回も竜退治を終えているのだ。体力は限界に近い。足下には剣。他に鎖がとぐろを巻いている。薄暗く雑然とした場所。魔術師に動く気配は無い。
つまらん物語だ。王子が死ねば物語が終わる。王子を助ければ、陳腐な展開。また王子は竜を倒し、姫を助けて、めでたし、めでたし。何度目だろう。大きくため息をついた。
「面倒くさいったら、ありゃしない。死んでしまえ。王子様」
「おいおい。しっかりしてくれよ。魔術師オーウェル」
突然の声。眼前の木が魔術師に語りかける。
「魔術師が行かなきゃ、王子様が死んでしまうよ」
魔術師はただ冷艶な眼差しを木に注いでいた。木は続ける。
「王子様が死んでしまったら、たくさんの希望も死んでしまう。魔術師。さあ。立ち上がって。準備をするんだ」
表の世界の声が聞こえる
『皆。魔術師を呼ぶんだ。大きな声で』
『さあ。せぇの』
木は枝葉の腕で魔術師の行く道を促した。ぽっかりと四角い穴があいている。
『魔術師さぁん』
大勢の助けが聞こえた。四角の穴から光が差し込んでいる。
「魔術師。ほら。時間だ」
魔術師はようやく立ち上がった。ぎしり、と床が笑う。魔術師は呪詛を噛み殺す。ああ。行かねばならぬ。これは宿命なのだ。魔術師は飛び出し、そして叫んだ。
『はっはっは。諸君。魔術師が来たからにはもう安心』
魔術師の到来に従者と騎士は喜び躍り上がった。
『おお。魔術師どの。王子様を助けておくれ』
スポットライトが魔術師を照らす。子供達の歓声。
「どうして僕がお遊戯会なんかに」
台本どおりの台詞の裏。魔術師オーウェル役の田中は毒づいた。




