ラズロの調査1
ラズロは翌日、ラインベリー家からの盗難の届出と調書を確認した。
【家宝の指輪がなくなっていることに気付いたのは、ダン・ラインベリーの長女マナであり、彼女は「私が相続するはずだった」と述べている。
仕舞われていたはずの金庫の中で、指輪だけがなくなっていた。とはほかの家族も証言の通り】
「…………ほぉん。指輪だけが、ねェ」
ラズロは次いで、金庫の中に残っていたものの目録に目を通す。
【・証券各種 ・金の延べ棒五万ポンド相当 ・宝飾品各種(リスト及び添付写真参照のこと) ・古い手紙の束
・古銭 ・銀行の通帳 ・現金二万ポンド】
「…………」
ラズロは目録を見ながら軽く天を仰いだ。
ある所にはあるものだ。
「だが……」
頬杖をつきながら、トントンと調書を叩く。
「案外、マジかもしれないな。……現金や金の延べ棒に目もくれず指輪だけを盗むなんて……ちょっと控えめすぎる」
まあ控えめそうな見た目の女ではあったが。
それにしても違和感は強い。
そもそも遺言書はなかったのか。
金庫にないなら顧問弁護士なりが持っていたのか。まさか無いということはないだろう。
ラズロは立ち上がると、調書類を片付けて保管室を出て行った。
ラズロが向かったのは刑事課の盗犯部である。
そこで顔見知りの、比較的気の良い刑事に声を掛けた。
「やぁハンスさん、ちょっといいかい」
「オゥ、なんだ……保管室係がなんの用だ、証拠品はちゃんと返してるぞ」
ハンス・ボリー刑事はラズロの顔を見ると少し警戒したように口を尖らせた。
角ばった強面の顔がジロッとラズロを睨む。
ハンスのその表情にラズロはへらへらと緩い愛想笑いを浮かべる。
「違いますよぉ別に文句とか催促とかじゃなくて……ちょっとお尋ねしたいことが……」
「……なんだよ」
「ラインベリー卿の指輪の盗難の件なんですけどね……」
「ん……あぁ、あれか……。聞いた所でなんにもならねえぞ、まだどこの質屋にも出回ってないか……裏のルートに乗っちまったか……」
ラズロはおや、と片眉を吊り上げた。
エリアスはまだ指輪の件を通報していないらしい。
「いや、まぁ……しかしあの、ちょっと調書整理してたらチラッと見えたんですけどね。……現金やら金の延べ棒やらある中で、あんな足のつきそうな指輪だけわざわざ盗むなんて……ちょっと変わった盗人ですよねェ……」
「……あぁ。…………そこだよ。俺もなぁ、なんか……ピンと来ないっつうか……おかしいよなやっぱ」
ハンスは、ずっと気になっていたことを言ってもらって我意を得たりとばかりに目を見開いた。
「ラインベリー卿の長女のばあさんが……そらもうすごい剣幕で……あの指輪は絶対に自分が相続するんだって……」
「ほかに何か盗まれたものなんかは……」
ハンスは肩を竦めた。
無いということだ。
「……娘さんが知らないだけで、案外……ラインベリー卿が誰かにプレゼントした……なんて可能性とかは……」
「……はぁ? 九十の爺さんだぞ。それに親しい人間てのも……あ、いや」
「いや……?」
「爺さんの部屋のベッド脇に、真新しい手編みのマフラーがあったんだよ。あんまり上手くもない……もしかしたら居たのかもな、秘密の恋人とか。はは。金持ちはいいよなぁ、ジジイになってもモテる……」
ハンスの声は乾いていた。
過酷な刑事稼業は、男を愛の喜びから長らく遠ざけているらしい。
「同感すねェ……」
ハンスの分厚い肩をぽんぽんと叩いて共感を示しつつ、ラズロはひとまず用は済んだと退散していく。
「なんだあいつ……胡散臭ぇなぁ」




