儚げ美人と指輪
「あの……ごめんください……」
その声は弱々しく、儚げだった。
その声音通りに、飾り気のない……しかし仕立ては素晴らしく良い……コートに身を包んだ女が立っていた。
「……ぉお」
ラズロの口から思わず感嘆の声が漏れる。
「……どうぞ。そこの男はただの冷やかしだ、気にしなくていい。……いや、そもそもとっとと帰れよおまえ」
エリアスは迎えた客の女に言ってから、ラズロが居座る不自然さに遅れて気付いたようだった。
「えぇ!? いやいや、まぁまぁ。こんな時間にこんな場所におひとりでいらしたなら帰り道も心配だ、お送りしますよぉ」
「……え、あの……え……と……?」
エリアスとラズロのやり取りに、女は少し困ったようにふたりを交互に見た。
ラズロはその視線に向けて、ニィ、とこれでもかというほどの愛想の良い笑みを浮かべる。
「チッ……わかりやすくやにさがりやがって。……どうぞお客さん、……だよな?」
「あ、は、はい……こ、ここに来れば……なんでも、お金に換えられる……と聞きまし、た……」
女の声は次第にか細くボソボソと小さくなっていく。
身なりこそ良いが、こんな場所に来るほどには金に困っている。なおかつそれを恥じている。とラズロはついそんな風に観察した。
「なんでもってことはない……ちゃんと価値のあるものだけだ。何を持ってきた……見せてみろ」
(すごいなコイツ……こんな美人相手にも全く態度が変わらない……)
エリアスの全方位平等に高慢な、客商売に全く向いてない態度にラズロは内心舌を巻く。
女も少し怯んだような、怖気付いたような様子を見せた。
その瞳が、ラズロに少し助けを求めるように向けられる。
「だ、大丈夫ですよぉご婦人! この男は誰にでもこうで……別に特別怒ってたり不機嫌なわけではなくて……常態がもうコレっていうか……」
フォローが難しかった。
「………………どっちも冷やかしなら帰れよ」
「あ、い、いえ……ひ、冷やかしでは……なくて……!」
女は慌てたようにクラッチバッグを開きながらカウンターまで駆け寄る。
そのバッグから取り出されたのは、大粒の宝石が嵌った指輪だった。
「こ、これなんです……けど……」
「おぉ……こりゃまた……」
ラズロは目を丸くした。
見たこともないような大粒の宝石だ。
こんな場末の質屋でこれに見合うような金を貸せるのか……? と訝しむ。
エリアスは眉ひとつ動かさず、その指輪を眺めて。
「盗品は扱わない」
「……! ぁ、ち、違います。これは、盗品なんかじゃ……」
「……そうか? ……じゃあどこで手に入れたんだ」
「も、貰ったんです……どうしても、困ったら……これを換金しなさいって……」
ラズロは、質屋の店主と客としてのふたりのやり取りを固唾を飲んで見守っていた。
盗品なのか?
正当な贈答品なのか?
ことによっては警察官としての働きをしなくてはならなくなる。
(ウソだろ……こんな儚げの美人が……)
できれば盗品ではないことを願う。
「あの……どうして……これが盗品だなんて、あなたは」
女が、ほんの少しの怒りを滲ませながらも控えめな声で問いただす。
エリアスは指輪を手に取り、じっくり鑑定しながら答えた。
微か、ほんの一瞬エリアスの眉根が寄る。
「組合で注意喚起が回っていた。ラインベリー家から、家宝の指輪が盗まれたってな。……台座がちょっと雑だな」
「……そんな…………」
「ぇ、おいおい、そりゃほんとですか?」
女は驚いたような、傷付いたような顔で口元を抑えた。
エリアスは、ラズロに冷たい一瞥を向ける。その目は、なんで警察のおまえがそんなことも知らないんだよと言いたげだった。
ラズロは苦笑しながら頭を掻く。
警察官だって毎日大量に起きる事件全てを把握しているわけではないと言いたかったが、口を噤む。
「……盗品じゃないっていうなら、その証明をして貰わないとな。この指輪は誰から貰ったんだ? そいつは正当な権利者なのか。……なんにしても」
エリアスはそこで言葉を切り、ラズロを見た。
「ここからはそっちの仕事だ」
「……え」




