発見
店の二階にあるエリアスの寝室、そのベッドの上で、痩せっぽちの少年は健やかな寝息を立てていた。
「おまえが出て行ってからそう経たないうちに、こいつが来たんだ。……忙しいから上に居ろって追いやって、宝石箱を調べてた」
「……えぇ…………」
ということは、ラズロは常にマイルに裏をかかれまくって後手に回り、当のマイルはエリアスによって匿われたということか。
がくりと肩を落とし、溜息を吐く。
「それから……あいつ……男が……怒り肩の大柄な……あいつが来て……」
エリアスの声はまだ怯えを孕んで震えている。
悔しげに唇を噛み、眉を顰めて、エリアスは続けた。
「宝石箱を渡せって言ってきた。質種だからダメだって言ったら……」
「エリアス……エリアスさん、いいですよ。調書じゃないんだ、細かく問いただしたりしませんよ」
「…………。…………渡したら、満足したみたいに帰って行った」
「怪我はないんですねェ?」
「…………あぁ」
エリアスは、やはり悔しそうに口を曲げる。
暴力に屈して質種をみすみす渡してしまったことを恥じているのかもしれない。
(命の方が大切でしょうに……)
ラズロは苦笑して。
「では、さっきの紙片は……」
「見たほうが早い。読めよ」
エリアスが紙片を押し付けるように渡して来る。ラズロはそれを受け取って、紙片を丁寧に開いていった。
それは、サーカスのチラシの裏だったり、誰かが書き損じて捨てたらしいメモの余白だったりに、拙い文字とめちゃくちゃな文法で綴られた……日記、或いは、懺悔のようなものだった。
そこにあるのは、後悔と、恐れと、謝罪と、断片的な事実だ。
読み解いていくうちに見えてきたのは、なんとも悍ましく、恐ろしい企みだった。
盗癖のあるメイドが、それを見咎められたことからその後悔の物語は始まる。
メイドは、盗みの罪を見逃す代わりに、生まれたばかりの赤ん坊の殺害を命じられる。
報酬には高価そうな見事な宝石箱。
しかし。
【おくさま やれ ゆったのあたし
あかちやん こわくて にげちやたの
ずっと かくしてた
ごめなさい
まいる ごめなさい
だなさま ごめなさい】
「………………これは…………また…………」
ラズロは目頭を揉みながら、絶句した。
拙い文字と文章から、意図を読み解くのにずいぶんと疲弊したというのもある。
ましてやその内容の重さに。
「宝石箱に、後から付け加えたらしいちゃちな二重底があった。この日記の女が手を加えたんだろうな……。…………どうだ?」
エリアスの最後に小さく付け足された問いに、ラズロは驚いたようにエリアスを見た。
その表情は、怒りなのか、哀しみなのか、それとも別の何かなのか、いつになく冴え冴えと冷えている。
「…………そう、ですねェ。この、おくさまってのも、あかちゃんてのも……どこの誰なのか書いてないですし……そうでなくても、証拠能力としては……」
エリアスの眉根が寄る。ラズロに向けられた目には、失望と軽蔑の色が濃く出る。
その眼差しは己の無力と無能を強く非難しているように感じられて、ラズロは苦く笑う。
「……………………いや、でも。どこかで聞いたような……話だ」
どこかで。割と最近に。どうしようもなく卑近で俗にまみれた、くだらないゴシップとして。
「わかりましたよ……。もう少し頑張ってみましょう、名誉挽回させてもらわないと」
「…………ないだろ、挽回するほどの名誉なんか」
エリアスはどこまでも容赦がなかった。




