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『巡査と質屋の共犯目録 灰色の正義について』  作者:
少年と宝石箱

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意外な再会




 警察署の地下にある証拠保管室の一角で、ラズロは古い事件録をパラパラとめくっていた。

 最近オイゲンから聞いた話を、起きた瞬間、ふいに思い出してしまったのだ。

 

 ちょうどあの噂と同じ年頃の少年と関わったというのもあるかもしれない。

 保管室勤務は基本的に暇なのも一因だろう。


 しかし調べても調べても、やはり誘拐事件の調書や報告書は見当たらなかった。


「やっ……ぱないじゃないすか~誘拐事件なんて……」


 所詮噂か。と次の調書の束を手に取る。

 

 ぱら、とめくる手が止まった。


「……ダーニング卿宅って」


 調書の内容は件のダーニング卿宅での不審死についてだった。


「……ダーニング卿宅より通報……妻マリィ・ダーニングが息をしていない、と……検案後、心臓発作による自然死として処理……。マリィ・ダーニング……25歳……って、えらく若いな……」


 記録を見れば十年前だ。

 マスターの言っていた奥方の葬儀というのはこれのことだろう。

 

「ん……まだページが……」


 ラズロの眉がぎゅっと寄る。


【ロイド・ダーニング、生後二ヶ月。心臓発作】


 これは、マリィの死より更に二年遡る。

 今から十二年前の出来事だ。

 これも一度は不審死として通報されたが、乳児によくあることとして処理されたようだ。


 ラズロはガシガシと頭を掻き、目頭を揉みほぐした。


「……だぁ! オイゲンさんの怪しげな噂に振り回されてなにしてんだ俺は。やめやめ。証拠品整理でもしときますかねェ……」


 なんとも嫌な気分を振り払うように声をあげ、頭も振った。

 

「暇を持て余すとロクなことにならないんだ、昔からそう言われてる……コレも……さっさと処分しないとなァ……」


 胸ポケットから取り出した、赤黒い汚れのついた弾丸をしばらく見つめ、溜息を吐く。


(……あの男には何が見えたんだろうなぁ……)


 弾丸は、以前エリアスにむりやり握らせたモノだった。

 エリアスはひどく苦しみ……そして……何も見えなかった、と不敵に笑って見せた。


 ラズロはぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜ、散らかる思考をむりやり押し込めるように制帽を被り直し、保管室を出て行った。


(署内散歩でもして紛らわさないと……)


◇◇◇


 ラズロは、騒がしい警察署ロビーで、ポカンとしていた。


「はなせ、はなせよ……!」

「うるせぇ、いいから来い……!」


 強面の男に腕を引っ張られながら、なお振り払おうともがく少年の姿。

 その痩せぎすの小さい体にも、赤銅色の髪にも、ラズロは覚えがありすぎた。


「ちょ、ちょ、ちょっとお待ちを……!」


 思わず声を掛けてしまう。

 強面の男が、胡乱なものを見るような目でラズロを見た。その目が「なんだテメェほんとに警官か?」とありありと物語る。


「あ……お、おじちゃん……昨日の……?」


 少年もラズロに気付き、驚愕に青い目を見開いていた。


 どうにも“らしからぬ”警察官であるラズロは、制服を着ていてすらこの有様だった。

 

「そのぉ……えぇと、すみませんね。その坊やは、いったい何を……して……?」

 

 ラズロがおずおずと男に尋ねる。

 男は口をひん曲げ、ひどく憎々しげに掴んだ少年の腕を引っ張った。少年から悲鳴が上がる。腕が引っこ抜けるんじゃないかとラズロも気が気ではない。


「何もかにも。盗みだよ。まいどまいどウチの焼きたてのパンをこのガキ……!」


 なんと驚愕なことに、強面の男はパン屋の職人であるらしい。

 少年は強い力に振り回されて、痛そうに呻いている。


「ぬ、盗み……そりゃ、いけませんね。……いや、でも……坊や、なぁ、昨日……」


 エリアスから相当な額を貰ったはずだ。

 盗まなくとも買えるはず。


「………………」


 少年は答えなかった。

 

「もういいかい。あんたも警官なら、こいつをさっさと捕まえてくれよ」


 男が言う。

 ロビーは騒がしく、次から次へと様々な客が訪れる。

 道を聞きに来たもの、落とし物の問い合わせ、逮捕されて連行されてきた容疑者と刑事などなど。

 受け付け署員は皆忙しそうだし、少年犯罪課は三階だ。ラズロは男に、気の毒そうな顔をして一歩歩み寄る。


「もちろん……お望みならそのように。でも、突き出してもこれまでのパンの代金が戻ってきたりはしなくて……」

「あぁ……? なんだとぉ……」

「通報は市民の義務ですし、感謝状くらいは……あるかも……しれません、けど……」


 ラズロはそっと、男の空いている太く逞しい大きな手の中に、数枚の札を握らせる。


「まだほら、ほんの子供で……見るからに痩せっぽちで……今にも飢え死にそうな子じゃないですか。調書作成となると相当なお時間頂くことにもなりますし……ここは……ひとつ、広い心で……」


 男はラズロをじろっと見て、手の中に握らされたものをぐしゃりと握り締めると、舌打ちしながら少年の腕を離した。


「とにかくこっからは警察に任せるよ」


 男は最後に少年をひと睨みすると、ふんと鼻を鳴らして踵を返して去っていく。

 ラズロははぁっと息を吐き、肩を落とした。背中もいつにも増して丸くなり、どことなく煤けている。


「さて……話を聞かせてもらいましょうか?」


 ラズロが少年を振り返る。

 少年はしばらく俯いて。


「ごめんねおじちゃん」

「へ……、ンギっ……!?」


 少年の爪先がラズロの脛を蹴り付け、パッと身を翻し走り去っていく。

 ラズロは脛を抑えてその場に蹲った。


「ラズロさん……?! 大丈夫!?」


 ようやく少し手が空いたらしい受け付けの署員が、蹲るラズロの背中に声を掛ける。

 ラズロは、ヒラヒラと手を振って応えた。


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