調査の終わりに
夕方。
エリアスの質屋に、どこからどう連絡を受け取ったのかアリサの姿があった。
ラズロは笑みを浮かべ、エリアスは憮然として、アリサは不安げだ。
「あ、あの……わ、私の居場所、どうやって……」
「いやぁははは。警察舐めてもらっちゃ困りますってェ」
へらへらと笑うラズロに、エリアスの眼差しはどこまでも冷ややかだ。
アリサはなおも不安そうに、ふたりの男を交互に見ていた。
「……そう不安そうになさらず。アリサさん、あんたの潔白を証明する証言が取れましてね……ラインベリー家が被害届を取り下げたんですよぉ」
ラズロはにこやかにアリサに告げる。
アリサはまだ事態を飲み込みきれていないようで、或いはこの胡散臭い男の言葉を信じきれないのか……ちらりとエリアスを見た。
「…………俺を見るな。爺さんに恋人が居たって話は……どうやら……その、チェス仲間ってやつが……証言……したとか……なんとか……」
ごにょごにょ。
エリアスの言葉は段々と曖昧に、不明瞭になっていく。
「そう! ラインベリー卿はそのチェス仲間に事細かに恋の相談なんぞして……手編みのマフラーに返すなら何がいいだろうかとか……指輪なんてどう? とか……そんな話をチェス打ちながらやってらしたそうでェ……」
アリサは驚いたように目を丸くした。
「……ぁ……ほ、ほんとに……?」
「……え、えぇまぁ。そうらしいですよぉ」
アリサの見開かれた目から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ落ちていく。
その様子には、ラズロどころかエリアスも動揺したようだった。
「ど、どうされました……?」
「……あ、ご、ごめんなさい……私……う、嬉しくて……そんな風に……私のこと、話してくれてるのも……そうやって楽しく過ごせるお友達が、あの人に居たことも……嬉しくて……」
次から次へと涙に濡れるアリサに、ラズロもエリアスもしばらく何も言えず黙っていた。
エリアスはそっと立ち上がり、奥からタオルを持ってきてラズロに投げ付ける。
「……じ、自分で渡しゃいいのに…………」
意図を察して思わず呟きながら、ラズロはアリサにタオルを差し出した。
大粒の涙を受け止めるタオルがどんどん湿っていく。
「ご……ごめんなさい……私……。こんなことで泣いて……おかしいですよね……」
「あぁ……いや……。…………本当に、愛してらっしゃったんですねェ…………」
九十の老人を。
金目当てでもなんでもなく。
ただ純粋に。
それはラズロからしても、おそらくエリアスからしても、実に不思議なことにも感じられたのだが。
「それで……指輪ですが……ラインベリー卿からあんたへのプレゼントとして贈られたと認められたので……晴れて……改めて、あんたのモンですよ。質に入れるも売り払うもご自由にってことで……」
ラズロが差し出した指輪を受け取ったアリサは、改めてそれを見つめ……嵌った大きな宝石をそっと撫でる。
その指先は、優しく、愛おしげで。
「やっぱり……私……指輪は預けないことにします。お金は……ないけど……でも、あの人との想い出を、いっときでも手放したくない……」
アリサはそう言うと、改めてラズロを……エリアスを……それぞれ見つめ、深々と礼をした。
「ありがとうございます。私、これで胸を張って、あの人の恋人だったって思って生きられます」
アリサの顔は、初めてこの店に来た時の儚げな様子はもう微塵もなく……晴々と、誇らしく輝いていた。
◇◇◇
アリサが帰ったあと、質屋にはふたりの男が、特に何か言葉を交わすでもなくぼんやり過ごしていた。
やがて。
「いつまで居座ってるつもりだ」
エリアスが口を開く。
「…………そんな冷たいこと言わないでくださいよぉ……あんな……キラキラの熱愛旋風に当てられたら……自分の人生のからっからっぷりに打ちのめされちゃって……」
ラズロの言葉に、エリアスは微塵も理解できるものがないと言わんばかりに顔を顰めた。
「せめてもっと具体的に喋れ……」
「なんでもかんでも具体化すりゃいいってもんじゃないでしょ~」
「…………チッ。知るか」
エリアスはすっかり呆れたように舌打ちすると、ラズロという存在を意識からすっかり追い出したようだった。
ラズロはまだしばらく、無音の時間をここで無為に過ごすつもりだ。
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