ラズロの調査4
「どうでしょう?」
エリアスの店。
ラズロが見守るなか、エリアスは指輪を丹念に――実に丹念に――調べ上げた。
そして、見つけてしまった。
「………………あったな、これは…………なんかの暗号か…………?」
指輪の宝石と台座の隙間に、それは密やかに隠されていた。
薄く細く、広げればずいぶんと長い、紙片。
「はは。……おそらく、これは……まぁ、偏見的洞察に満ち溢れた推理なんですが……」
とラズロは前置きし、エリアスが胡乱げに目を細める。
「裏帳簿……ってやつでしょう、ね」
「………………いくらなんでも……偏見過ぎないか」
金持ちはだいたい裏帳簿があって脱税しがち、といういかにも貧乏人の僻みみたいな推理だ。
エリアスが呆れた顔をする。
「じゃあ闇取引の相手のリストですよ」
ラズロは言葉を重ねた。
エリアスは鼻を鳴らし、どうでもよさそうに肩を竦めた。
「で。……だったとしてどうするんだ。指輪はあの女のものにはならないぞ」
「……さて。どうでしょうかねェ」
「……………………おまえ……なに考えてる……」
エリアスの問いに、ラズロは軽く肩を竦めてみせた。
◇◇◇
非番の日、ラズロはいつもの草臥れた薄っぺらいコートに安っぽいスーツの姿で、マナ・ラインベリーの証券事務所を訪ねていた。
マナ・ラインベリーは「指輪の件で」と告げるとあっさりとラズロを社長室に招き入れた。
六十代くらいだろうか、眼光鋭いやり手の老女という様子でシャンと背筋を伸ばしてラズロに相対する。
(気の強い美人って感じだなァ……)
ラズロはともすれば気圧されそうになる気持ちを、往年のマナ氏の美貌を想像することで耐えている。
「それで……ラズロさんと言ったかしら……指輪のことだけれど……」
マナ氏の声は深く低く威厳に満ちていた。
並大抵の男では太刀打ちできそうにない。
ラズロは、草臥れた薄っぺらいコートの背を丸め、ひょろ長い手足を折りたたむようにソファに座って。
「はい……マダム……ええ、いや、レディ?」
「なんでもいいわ。本題」
「はいただいま……!」
若干気圧され気味に、ごそりとポケットに手を突っ込み……コトン、とハンカチに包んだ指輪をテーブルに置いた。
マナ氏はぴくりと片眉を吊り上げ、微かに逸る気持ちを抑えるようにことさらゆっくりした動きで指輪を摘み上げる。
マナ氏は、指輪を手に取ると、一瞬、ほんの微かに指先はその宝石の根元を親指でなぞる。
そうしてその鋭い眼差しは、本物かを検分するようにじっくりと指輪に注がれていたが。
「…………えぇ、どうやら……本物の、我が家の家宝の指輪のよう。……あなた、これをどこで」
ラズロはマナ氏の言葉を中途で制するように手の平を向けた。
「まぁ……」
その無礼な態度にムッとしたらしい彼女は。
「…………! そ、それは…………!」
次の瞬間、大きく目を見開いた。
ラズロの手の指の間に。
家宝の指輪にひっそりと隠されていた、小さく長く細い紙片が挟まっていたのだ。
マナ氏の表情に、ラズロはゆったりと余裕のある笑みを浮かべた。
「ねぇマダム。…………取引しませんか」




