第二話 消えた告白
不慮の事故や事件で恋人や家族を亡くした主人公が、不思議な力で一日をやり直し、最愛の人を取り戻すために奮闘する。
そんな映画やドラマを何度か観たことがある。結末はたいていハッピーエンドで、主人公は平穏な日常を取り戻す。
「えっ……花火って、今日だよね?」
昨日をやり直すなら、智也より俺の方が良かった——そしたら、あの独りよがりの告白をやり直して、智也をこんな目に遭わせないのに——。
8月20日(日)
「あの子、さっき意識を取り戻して、今検査を受けるところだから、もう少し待っててね。」
「怪我けっこう酷いんですか……頭から血を流してたし、骨折とかしてたら……」
「大丈夫、大丈夫。骨折はしてないし、出血も階段から落ちた時に少し切っただけみたいだから」
あの古びた階段は、老朽化が進み脆くなっていたらしい。近くに新しくて広い公園が出来て利用者が減り、役所も放置していたらしいが、昨日の一件で立ち入り禁止になったそうだ。
「すみません……僕があそこで花火を見ようって智也を誘ったんです」
「博樹くんのせいじゃないわよ。あの子がそそっかしいだけ。老朽化が進んでたとはいえ、階段の途中で花火に夢中になって落ちるとは……我が息子ながら呆れるわ」
智也はきっとお母さんに似たのだろう。こんな時でも俺のことを気遣って明るく振る舞っている。智也が病院に搬送された後、駆けつけた智也のお母さんは一度も俺を責めなかった。
「あの子、こんなんだけど、これからも仲良くしてあげてね」
その言葉に胸が苦しくなり、俺の視界はぼやけだす。すぐに目尻が熱くなり、その熱が頬を伝って足元に落ちていった。
昨日の出来事を、なぜあの場所で立ち止まったのかを、正直に伝える勇気が俺にはない。独りよがりの告白で智也を危険に晒した俺に、こんな優しい言葉をかけてもらう資格はないのだ。
そんな俺の頭を柔らかな手がそっと撫でている。その手から伝わる優しさに、ますます申し訳なくなり、涙が止め処なく流れて行く。
「なんで泣いてるの?」
検査を終えた智也が病室に戻ってくるなり、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「お母さんに酷いこと言われたの!?」
「あんた自分の母親のことなんだと思ってるのよ」
「だって……博樹が泣いてるところなんて初めて見たんだもん」
「大丈夫なのか?」
「うん、ぜんぜん平気だよ!でもしばらくは念の為に入院だって」
「そっか。それなら良かった」
「でも残念だな。博樹と花火見るの楽しにしてたのに……一緒に行けなくてごめんね」
「えっ……何言ってるんだよ?」
「えっ……花火って、今日だよね?」
「あんた何言ってるの……花火は昨日よ。博樹くんと花火を見にいって、そこで階段から落ちたんじゃない」
「えっ、どういうこと?」
「もしかして博樹、昨日のこと、何も覚えてないのか?」
博樹の頭からは昨日一日記憶がぽっかりと抜け落ちていた。照れながら褒めてくれた俺の浴衣姿も、屋台で買った焼きそばを二人で分けて食べたことも、そして、あの階段での告白も——すべて消え去ってしまった——。