第98話 雑魚戦
「あなたはあわれです。かあいさうです。かあいさうです。かあいさうです。かあいさうです。かあいさうです。かあいさうです。かあいさうです」
岩手県池首市。六月池にて。
ふたつの妖気が揺らめいていた。
ひとつは怪奇。もうひとつは空想怪奇。
「いいからかかってこいよ。ダボハゼ野郎」
島陸獄は思う。そうだ、挑発してこの短気な子供を挑発しよう、と。
「萩野優子もかあいさう。あわれです。まるで自分が生きていた人間であるかの如く。操り人形でかあいさう。かあいさう。あなたの両親もかあいさう。殺されちゃってかあい──」
いない。
滝隼人の姿がない。
気がついて1秒後。
地面に雷電が疾走るッッッ!!
そして、「どこだ」と思った瞬間、「パン!」と鳴る。それが蹴りの衝突音だと気付いた頃には地面を跳ねていた。
「ぎっ、きぃいいいい!?」
「可哀想なんだろ」
滝隼人の黒い強化皮膚に黄色いラインが入っている。まるで、雷電のように。
「慰めてくれよ。経験豊富なんだろ」
「なんだっ!?」
顔を上げると、その顔面に膝がめり込んだ。
「立てっ! 島陸獄っ! 立ち上がらないと! ぶっ殺すぞ!」
「ぎっ、ぎぎっ、ナメっ、ナメるなぁっ!」
「弱者ァっ!」
滝隼人は島陸獄の首を、蹴り飛ばした。島陸獄は立ち上がると、霊力を球体にし、滝隼人にぶつける。
滝隼人はそれを掴むと霧散させた。
「調子に乗るなァっ! 死にきれずの老耄ッ!」
「若いもんが……調子に乗るな、は私の言葉じゃボケーッ!」
霊力の弾丸を連発する。
これで雷電のような滝隼人の暴力が止むか──!?
しかし!
「邪魔じゃダボハゼ野郎ォっ!」
滝隼人は霊力を放出し、その弾丸を消滅させた。
「なんじゃ、テメェ様は人の命を愚弄する癖にやけに弱いじゃねェかよ! 立て! お前はまだ苦しみ足りんぞ!」
「地獄! 地獄じゃ!」
「そうだっ! ここは地獄の1丁目だ!」
島陸獄が飛びかかり、滝隼人の髪を掴む。
すると、滝隼人はその腋の下を突き、島陸獄はそれに怯み、ぐらついた。そこを、隼人の蹴りが襲う。
「私は強いんだっ……40年生きた滝の血を、滝の血を、打ち負かしたんだっ! なのに、なのに! なんで! 十数年しか生きてないお前のような子供に!」
島陸獄が蹴りを放つと、滝隼人はその脚を掴み膝を降り砕きながら、後ろへ引っ張り、地面に殴り落とした。
「立てっ!」
「無理っ」
「立てェっ!」
滝隼人の怒号が飛ぶ!
「ぎっ、ぎぎっ、ばぁぁっ」
島陸獄は配下においている怪異の霊力を吸収し回収しようとした。
が!
来ない!
配下の怪異の霊力が!
来ない!
「お前の配下なら全員成仏させたよ」
「はっ……?」
「お前の配下なら全員成仏させたよ」
「はっ? ……えっ? ……何してんの……?」
「成仏」
島陸獄にいままで苦労の記憶が蘇る。
「滝……隼人……」
せっかく見つけた自殺した霊。
「滝隼人……!」
せっかく頑張って殺した一家の霊。
「滝隼人ォ……!」
せっかく、せっかく、頑張って集めた20の霊魂。
「滝ッ! 隼人ォっ!」
思わず叫ぶ。
滝隼人は顔を醜く嘲笑うように歪める。
「声がデケェよ、ダボハゼ野郎」
「うわああああああああっ!」
島陸獄の首が落ちる。
「声がデケェって」




