第9話 遠くで見てる
夜、眠っていると外から金属に硬いものでもぶつかっているような音があった。その時、怪談師「森林亭萩月」が収録した怪談のカセットテープ「月下」を流していたから、俺は途端に薄気味悪くなって、強盗かもしれないと思って、鳩汰兄ちゃんが中学生の時に買ったらしい「金ピカ木刀デラックス」を抱えて、時が経つのを待った。
翌日、近所に住んでいる従兄弟の一郎くんを連れて、その音がした方を見に行った。それは、家の裏手で、一郎は蜘蛛の巣にひっかかって「家周り綺麗にしろよ」と愚痴をこぼしていた。
「うわっ、なんだこれ」
家の裏においていたドラム缶に、なにかの塊のような物がこびりついていた。
「なんだこれ」
「おいっ、あれっ」
一郎くんが騒ぎ、指をさす。
俺の家は、裏には隣のおじいちゃんの所有する畑があり、そして、それより後ろに行くと、徒歩で30分くらいあるかないと家がなかなかない田園風景が広がっている。一郎くんが指をさしていたのは、はるか遠くの家のガレージ。そこには男が居た。灰色のスウェットに白いラインのジャージのズボンを着用した頬痩けた男が立っていた。
「なんだアレ」
「あいつの手……あいつの手、血まみれだっ」
「ふむ……」
男は此方をずっと見ている。
「犯人はアレかな」
「通報するか?」
「んー……そうだね。しようか。一郎くんがしてきてほしいな。頼めるかい?」