第89話 煽り合うなバカ共
ドアチャイムを3度ほど鳴らすと、玄関が開いて、禿頭の肌の黒い男が現れた。その男はたしかに、俺の父やおじさんにそっくりの目鼻立ちをしていた。
「私が萩月だ」
「ハガキで用件は先に伝えているから、その補強としてこちらの情報を開示しますね」
左利き。身長は287センチ。視力はあまりよくなく、普段は眼鏡をかけている。歯の黄ばみからおそらく普段から珈琲や煙草を喫むが最低限のケアしかしていないのだろう。話をする怪談師としては最悪だ。肝臓に疾患がある。なのに煙草を辞めないところから見てあまり生に縛られてはいない。金は貯めているからきっと何かの目的がある。おそらく……喧嘩の際はまずは髪の毛を掴んでくる。なので、脇下を突き、蹌踉めいたところに脚を破壊する。クレマン値は800以上。
「俺は日比野隼人。そして、こっちは従兄弟の日比野一郎」
「日比野隼人……。右利き。身長は179センチ。視力はあまり良くないが眼鏡はしていない。飯は食べなくて、精神的な病気にかかっている。クレマン値は9000オーバー。私も滝の血を引いていることを忘れたか?」
「意外。俺は両利きだし、視力は良いほうですよ。ちょっとした演技に惑わされるんですね。ほんとに滝ですか? それとも猿の部分?」
一郎くんが「やめろ隼人」と言う。
「そんなんだから嫁さんと息子に逃げられるんじゃないか?」
「探偵でも使って調べたか? 金だけはあるんだな。親の遺産か?」
「探偵? うーん、探偵は1人を除いて信用ならんね。使ってない」
「1人を除いて? その1人とは?」
「俺だ。そういえば、目の下に隈を作ってどうした? お仕事でも行き詰まってるのか? それとも昨晩は男でも呼んでヤってたか?」
「次の仕事の台本を頭に叩き込んでいてね。子供には分からなかったかな」
「うん。分からないね」
「はーっ。随分とまぁ素直だ」
「頭に叩き込むなんて言い方、まるで一度読んだだけで覚えきれない……みたいな弱音に聴こえる。滝の血が入っていれば……そんなことは無いはずでは? もしかして、養子か?」
ぼわっ、と黒色の霊力が現れる。萩月の両頬には罅がはいり、赤く妖しく輝く。
「殺すぞ、ガキ」
赤斑のある黒色霊力をあらわして、エクストラムマンに変身した。
「霊力の破裂音で聞こえなかったので、もう一度ォ」
「……ナメやがって……」
「悪いね。馬鹿は動物に見えるから。ほら、動物って人間にナメられるもんだろ。例えばそうだなァ、大して賢くもないのに賢いフリをする奴なんかは特にね。腹が立っているみたいだけど、ここに来る時、あんた俺達を何人組だと?」
「なに?」
「よく観察しろって話だよ」
弾くんが2階から降りてきた。
「いつの間に!? 足音ひとつ……」
「さっき言ったろ。霊力の破裂音で聞こえなかったって。まず、怒りを誘発する。例えば君が怒るようなことをね。すると、君は俺に注目するようになる。これはまぁ、周囲の目もある。みんなが俺を見ていたろ。俺は背も大きいから、俺を見るとき自然と顔を見るようになり、そうすると小さい悠なんかは顔を上げる。すると、それにつられて、あんたも俺を見るようになる。そうすると、まず体格の小さい彼には目もいかなくなる。彼は人の視点の中にある『盲点』あるいは『死角』を瞬間的に理解できるからそこを突いた。目的のものは手に入れたので帰らさせていただきます」
「待てっ。何を取った!」
「木箱」




