第87話 隠されざる兄弟
北愛子。北愛子。
花子ちゃんの「お姉ちゃん」は北愛子だった。
言いようも無い不安が胸に押し寄せる。
押しては返す波ではなく、ドラッと押してきて一向に帰る気のない面倒臭い親戚のような不安感だ。
なにかわけのわからない事が起ころうとしている。俺はそう感じていた。
「ふたりとも」
一郎くんにそれを話して、頭を悩ませていると、日比野紳助さんが部屋に入ってきた。
「なんですか」
「そろそろふたりにも話していこうと思ってな」
「なにをです? 別にいまさら隼人が知らないこともないだろうに。なぁ?」
「俺にも知らない事はあるよ」
日比野紳助さんは座ると、ひと呼吸の間を開けて、語る。
「隼人の父──滝忠信と、一郎の父──滝忠敬の間に、もうひとり、隠されざる兄弟がいるんだ」
「隠されざる兄弟……?」
「ああ。現在は森林亭萩月という名前で怪談師をしている。しかし、ほんとうの名前は滝忠和っていう変な奴なんだ。萩月は高校時代、忠信や俺といろいろな事をしてきた。その経験から怪談師になったんだ」
「その人がどうしたんです?」
森林亭萩月……?
どこかで聞いたことがあるような気がする。
どこだったか。思い出せない。
「ふたりにはその萩月に会ってもらいたいんだ。渡したい物があるんだ。お願いできるか?」
「それはまぁ、構いませんが。隼人はいいか?」
「ああ。その変な奴に会ってみたい」
あと、隠されざるの使い方間違っているのがもやもやする。




