第84話 溺れる、
気がつけば空は暗かった。
周囲の街灯はついていて、家々は暖色の明かりをつけていた。
いつの間に? いつの間に?
俺たちは困惑した。公衆便所の電灯が点滅する。ブンブン、パチン。
そうして、点滅の合間に、ヒュウと風が吹く。
俺は言いしれぬ不安感に襲われた。締まりの悪い風が吹き、自分の呼吸音が聞こえている。
いきなりその風は生暖かく変質した。
そして、鼻の奥に突き刺さるような酸っぱさすらあるような、生臭さがあった。
視界は揺らぎ、頭痛に見舞われる。
そこでようやく、視界の先に少女の人影があることに気がつく。
「変身しろっ」
慌てて騒げど、視界が、ミシリと歪み切る。次の瞬間、水の中から飛び上がるような感覚に襲われた。
「一郎くん! 拓也くん!」
そこには誰も居なかった。それどころか公園ですら無い。ここはどこだ……?
道も建物も古臭い。
匂いもまるで清潔感がなかった。
「ここはどこだ……?」
しばらくして、そこに男と女が現れた。男は何処かで見たことのあるような顔をしていた。
「罪人……?」
言い方を変えると、俺の先祖のようである。その顔を見たのは、「生き猿」について調べたときなのだが、その時は絵だったが……よく似ていた。
女は、その男に嬉しそうに声をかけた。
「一文字さん、ねえ、次はどこで会えるかしら」
男は答えた。
「そうだなあ、次は来年のこの年に会おう」
「●●●●村に行ってしまうのですね。私は寂しいです」
「大丈夫さ。私はまた戻って来る」
なんて……? どこに行くのか? わからない、聞こえなかった。
「しかし、ほんとうに、今回は解決してくださってありがとうございます。祖父もきっと、喜んでいます」
およよ、と女は泣く。
「かまいません。私は探偵。あなたの様な綺麗な御婦人の涙を拭いたかった」
「さすがです。秘密探偵さん」
女は頬を赤くして、喜んだ。
「また来てくださいね」
「ああ、また来るよ。この一文字幽石、きっと必ず」
また溺れるように落ちる。




