第83話 作戦開始
俺たちはまたあの公衆便所のある公園に舞い戻った。
俺の指示というのは簡単なもので、「花子ちゃんに同情してみる」というものだ。
幽霊というものであるならば、そこに溜まった悪感情であるから、同情して波長を合わせ……引き寄せることができるかもしれないと思ったのだ。
簡単に言わせてもらえれば、釣りである。
その釣りを行うのは一郎くんである。一郎くんは声帯模写というのが得意である。それはもうおかしいくらいに、正確なものである。聞けば、彼は一度声を聞いた人間の声の波長を事細かにイメージすることかできるのだそうだ。そのイメージした波長に「あいうえお」の母音を発声した場合の「ブレ」を照らし合わせて、波長を成形し直す。そして、「男性Aタイプ」「男性Bタイプ」「男性Cタイプ」「女性Aタイプ」「女性Bタイプ」「女性Cタイプ」のもともとある声タイプをその波形に歪めるのだそうだ。すると、そっくりの声を出すことが出来る。
この彼の技術を信頼し、俺は一郎くんに「千代子夫人」の声を真似させた。
「花子ちゃん、花子ちゃん。かわいそうに。かわいそうに。迎えに来たよ、出ておいで」
そして、もし花子ちゃんの幽霊が揺らいで出てきてくれるかもしれないと考えた。そして、出てきたところで、そこにまた同情の色を見せる。
もし実体のあるタイプで、襲ってくるような怪異ならば俺がその様子を見る。ラハナー値を推し量るのである。
「さて……出てくるか……?」




