第82話 デカケツゴマフアザラシ
「あそこで中学1年生の女の子が死んだらしい」
「おお」
「これはおおだな」
女の子の名前は花子。花子ちゃんはどうやら学校でいじめられていたらしい。そのいじめの原因は分からないが、どうやらそれは過激なもので、女の子は、同級生にあの公園のトイレに閉じ込められ、とてもつらいことをさせられてしまったのだとか。
山猫さんに頼んで当時の新聞の記事を図書館から持ってきてもらって、それを見たところ、日記に「小学生の男児と性行為をさせられた」というものが書かれていた。
「さっきのって、ああいうことかな」
陽太くんが折りたたみ傘の姿でピョンピョン跳ねながら言った。
「あん?」
「『エッチなのはダメ』って滝さん怒ったろ。もしかしたら『勃起』でこの花子ってやつのトラウマを刺激したとか」
「関係ない気がするし関係ある気もする……隼人だからな……」
「俺だからなんだ」
「普段からこいつ変なことばっか考えてるからな……。こいつ小2の頃に『おばけに思考を覗かれるかもしれない』って言って、並行して思考するようになったんだよ」
一郎くんが言うと、拓也くんが「そういうご病気かな?」とからかう。
「並行して思考ってどういうことだよ」
「そのまんま」
「俺には『視覚・嗅覚・聴覚・触覚から得た情報を自動で取捨選択して記憶する前にストックしておくための思考』がある。これは、気が向いたら、整理された記憶を頭の中のパソコンにインストールさせておける。もうひとつ、『怪異保存機関閲覧用の思考』がある。つねにナンバー1から最新ナンバーまでの怪異を垂れ流しにしている。そして、メイン。ここで俺は普通に思考し、君たちと接している」
そして最後に状況説明用の思考。これは君たちのために最近新しく作ったものである。
「さて……」
「その普段の思考の方でエロいこと考えてるだろ」
「考えてないな。考えてるわけがないだろ。何を言ってるんだ。何を言ってるんだ……? 俺がいつエッチなことを言った? 何時何分地球が何回まわった頃? ふざけるなよ。殴るぞ。お前。妖怪デカケツゴマフアザラシがよ。バカじゃねえの。バーカバーカ。アホマヌケ。ほんとありえないわ。なに言ってんだよコイツ」
「『なぁ隼人……』『なんだい?』『犬の真似事って? 骨とかもよくわかんない』『おっ、俺が身を以て教えようか……!?』」
腹の立つ声真似で、一郎くんは芝居をした。
「な、お前が忘れるわけ無いもんな」
「いつの話なんだ」
「小6の頃」
「キモ。滝さん。キモい」
「ぶっちゃけ隼人はスケベすぎて花子ちゃんの地雷かも知んねぇな……おい、スケベ。お前この作戦降りろ」
「なんだなんだ。いじめか。忙しい事で」
「作戦降りるかスケベやめろ」
「なんなんだよ一体……」
「とりあえず今回ばかりはお前は頭脳役だな。指示役になれ」
「別に構わんが……お前らはそれでいいのか」
「それがいいんだ」
「…………よし。まぁいいか……」
作戦指示──俺
実行役───拓也くん
補助役───一郎くん
結果、こういう配役になった。
大丈夫なのだろうか。心配である。




