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第73話 ヒョコヒョコさん
朝、目を覚まして、寝ている隼人を横目に部屋を出る。廊下についている窓は屋根をうつしていた。ふと、何かがヒョコヒョコ飛んでいるのに気がつく。鳥かと思ったが、違っていた。それは頭だった。ハゲた男の頭がヒョコヒョコと飛び出したり沈んだりしていたのだ。俺は驚いて隼人を起こそうとしたが、その顔に魅入られて、動けなくなった。その顔は笑顔だった。宝物でも見つけたように、男は満面の笑みを浮かべていた。しばらくその顔と見つめ合って、ふいにかけられた「おい、何をしている」という声でふと目を逸らした。逸らした先には隼人がいた。隼人は右目の周りにある火傷痕を掻きながら、不機嫌そうな顔をしていた。もう一度顔を戻すと、その頭はどこにもなかった。後にその事を隼人に尋ねると、「ヒョコヒョコさんだ」とだけ、ぶっきらぼうに返された。




