第72話 そういうあれ
師匠との交流を終えて喫茶「バーミンガム」から出ると、俺はすぐに怪異保存機関にアクセスした。あらゆる情報を持って、「変身する怪異」について、必要になりそうだから纏めておく事にしたのだ。情報を漁っていく内に、気になる物を見つけた。
それは、ある怪異に関するもので、その怪異は人の性別というものを取っ払ってしまうらしい。名は「ランショウさん」という。性別を取っ払うというのは、具体的にどんな具合かと言うと、つまるところ、男から女へ、女から男へ、という性転換を周期的に繰り返す肉体に作り変えてしまうという状態の事だ。遺伝子の異常らしいが、このランショウさんという怪異はそれを引き起こす能力を持っているのかもしれない。そして、性別を変えられる人間の条件として、「同性への一定水準以上の恋心を抱いている男」とある。
「なんかめっちゃエロ漫画みてぇな怪異だな……」
中学生がアブノーマルイキりをする時に読むエロ漫画みたいだ、と思った。男の娘やTSものは別にウラニズムでもなんでもない、と思う。個人的には。だってそういうのはたいてい女の子から奥の院を撤去してポコチンを取り付けただけだし。TSに至っては普通に男ではなく女だし。ふざけるな。ぶっ殺すぞ。
「何が?」
「ひっ」
驚いた。驚いたのか? この俺が? 驚いたんだろうな。この俺が。気がつけば、傍らには悠と弾くんがいた。ふたりはどうやら学校帰りらしい。
「さっきから声かけてたのに。気付かなかったの?」
「すまない。怪異保存機関にアクセスしていた。次からは気を付ける」
「エロ漫画みたいな怪異って?」
「タコの怪異?」
俺は頬を掻いた。少し恥ずかしくなったのだ。
「人の性別を変えてしまう怪異だよ。ランショウさんと言って……周期的に男から女へ、女から男へ、というふうに性別をコロコロ変えてしまう状態に変えてしまう怪異らしいんだが、見た目は……」
最近編み出した空中に怪異保存機関内の情報を映し出すという技術を使う。つまり思い出して幻覚を見ているだけである。
「巨大な毒虫らしい。少しグロテスクだな。…………どうした、ふたりとも」
「そのことで師匠に相談しに来たんだ」
「ランショウさんについて? はてどういうことか。教えろ」
「拷問かな? なんか俺朝起きたら女の子になってた」
悠は言った。
「変な虫に体中弄られる夢をみたし、たぶんランショウさんだわな。ガハハ」
「はーっ。それで声が高いのかっ」
「観察眼が衰えたな隼人っ」
「うーむ」
──性別を変えられる人間の条件は、「同性への一定水準以上の恋心を抱いている男」である。
「7年もすればおめでたい報告が聞けそうかな」
「なんだそれ。お前それは何煽りだそれは」
「なんでもないさ。俺はもう帰るから、君たちも帰りは師匠に送ってもらえ」
「もう行くの?」
悠が言う。
「悪いか?」
「悪くねぇけど……」
「なら行かせてもらう。頑張れふたりとも。俺は君たちのことを未来永劫応援するよ」
キャラに思想を話させるなಥ_ಥ




