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空想怪奇ラフ  作者: 蟹谷梅次
空想怪奇ラフ エクストラムマン 継承
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第71話 師匠聞いてくれ

「──エクストラムの輝きに?」


 師匠にそのことについて話すと、彼はやや驚いた顔をしてから、俺が見せたその黒く濁る宝石をマジマジと見て、自分の持つ宝石と見比べていた。


「ふむ、ふむ」


 師匠は何かを解析しているようで、顔には霊力を纏っている時の一郎くんのような、模様が浮かび上がっていた。しばらくすると「たしかに」と吐き出すように、彼は言う。


「これはエクストラムに変身する為の物に違いない。これは、『空想怪奇』という物で……エクストラムの輝きに認められた者が触れれば思い描く最高の自分になることが出来る。アーシが思い描いたのは『どんな正義にも負けない最強の兵士』だったが……君は……!?」

「わかりません。夢からさめて、気がつけば、右腕が変身していた。もしかしたら俺はまだエクストラムマンとしては不完全なものなのかもしれない。だから、その空想怪奇とやらも不完全な状態なのかもしれない」


 俺の考察に、師匠は頷いた。


「これにはきっと君の精神状態が深く関係していると思う。君の心の傷はまだ癒えていない。趣味を見つけてみたらどうだ? そうだ、週末にみんなで釣りにでも行かないか。一郎くんや弾くん、悠くんも誘おう」

「それはとても魅力的な提案だ」


 俺は笑ってみようとしたが、どうにも顔がうまく動かない。いつもこうだった。あの日から、俺の顔は酷く硬直していて、表情らしい表情を作れなくなっていた。


「だけど、俺は実に遠慮しておきたい。まだそんな事を出来るほど自分に自信が持てていないというのもそうだけど……俺は折角釣られてくれた魚を食べてやることが出来ない。命の無駄遣いをしてしまうかもしれない。無理にでも食って、吐き出すのも迷惑な話だ」

「それもそうか」

「でも、あの3人は喜んでくれるだろうから、是非ともあの3人を誘ってやってほしい。一郎くんは気を遣うのが上手だから、もしかしたら、弾くんと悠の仲が進展するかもしれない」


 俺のその言葉──特に最後の方──に違和感を覚えたらしい師匠が首を傾げながら怪訝そうな顔をした。


「ふたりの仲が進展するかも、とはどういうことだい?」


 俺は弾くんと悠の関係について話してみた。


「もしかしたらあのふたりは何かそういう色恋の関係になるかもしれない。悠は女の子のような見た目をしているし、弾くんは惚れっぽい性格だ。それに悠もね。俺と一郎くんが盛岡に行っているこの数年の間にふたりで遊びに行ったり色々なことをしていたらしいから、だから、ふたりの間には友情を超えた友情があるのかもしれないと思ったんだ」


 俺は頭が良い。俺の考察というか推理というのは、よく当たる。当たってほしくないものまで事細かに当たってしまう。そして、この「弾くんと悠の恋仲」というのは、俺にとって何処かモヤモヤとするものだった。


「君はほんっとうにバカだな!!」

「えっ」

「いや、もう、そういう子供なのは分かっていたけど君ってほんとうにバカだ!!」

「ええっ。二度打ちっ」

「君、人間観察は得意なくせに人の気持ちが分からないのか! 悠くんをよく見ろ! 見てあげろ! 君に対してどういう目を向けているのかよく考えろ! いいか、君はほんとうにバカだ! ほんとうにバカなんだ! 多少人より賢くて、多少人より優しくて、多少人より傲慢なだけのただのバカだ!」


 師匠は呆れたようにそう言っていて、過去に何かがあった事が察せられた。


「昔こういう男を知っているよ。教訓がてら知っておけ。その男は学生でね、祓い屋に師事していたんたが、その男というのは、これはこれは鈍感で。その祓い屋が自分に向けていた好意の一欠片にも気付いてやれなくて、その祓い屋が亡くなった後、日記にてその事を知り、酷く後悔したらしい。男は男で祓い屋に好意を寄せていたんだ。この話の場合、ふたりは男女で、君は同性だが、まぁそんな話は置いておいて」


 師匠は少し悲しそうな顔をした。


「気付かないっていうのは……ダメだ。気付いてやらなくちゃ。君たちはどちらもそれほど器用じゃないからな」


 俺はこれまでの悠を思い返してみたが、確かに俺のことを好いているようだった。しかしそれは友愛であった。そしてそれは数年前のものだ。いまはもうそんなものないだろう。これを自覚してどうしろというのか。家族も護れない、こんな屑を愛する人間なんぞ居て溜まるか。

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