第62話 帰る時の接触は
盛岡に帰るため、駅通り商店街を歩いていると、ふと呼び止められた。そこには師匠の姿があって、その後ろには見知った顔があった。悠だ。
「隼人くん! 帰ってきていたんだな、連絡してくれれば車くらい出せたのに」
「あんたも忙しいでしょ。本業は祓い屋じゃないんでしょ。フリーのライターで、兄の同業者」
「この時期は暇なんだ」
「そうですか。でもいりません。中学生を連れ回すなんて、ほら、事案だ」
「はは……」
師匠は小さく笑って話題を変えた。
「身長伸びたな」
「はい」
「何センチ」
「179です」
「大きい! 鳩汰も大きかった。血だな」
「……ええ。そうだな」
「部活とかやってるかい? バスケは続けてる?」
「いや。やめましたよ」
「才能あったのに!」
「だからですよ。俺は醜い悪魔だ。なのに、活躍しちゃマズい」
悠は白い肌に大きな丸い瞳をしていた。子供の頃──いまもじゅうぶん子供だが──のあの女の子らしい顔立ちがそのまま女の子らしく成長したような顔立ちをしていた。
「弾くんは元気か?」
「…………」
「悠。弾くんは元気か?」
「…………えっ? あっ……おう! もうバリバリに元気だよ」
「そうか。なら安心だ。彼は一郎くんと、うんと仲が良かったから離れ離れになって悲しんでいやしないかと恐ろしかったんだ」
「そっ……そっかぁ!」
「どうした」
俺が言うと、悠は「なんでもない」と返してきた。人の顔をじろじろ見て。いい気分ではない。
「顔がだいぶ良くなってる……!」
「やけどが目立つだろ」
「それを加味してもさ! 俺が女だったら惚れてたかもしんね〜わ! ガハハ」
「そうか。それは嬉しいことを聞けた。ミセス福井悠。お前のご両親は元気か?」
「えっ? ああ! めちゃくちゃ元気!」
そうしていると、辺り一面に広がるようなけたたましいクラクションが響いた。見れば、女の子が道路の真ん中で転んでしまったらしく、トラックがブレーキを踏んでいるらしい。しかしどうにも、止まり切る頃には轢き潰しているだろう。
「危ないな」
と俺が言うのとほぼ同時に「危ない」という叫び声があって……黒のレインコートが俺の頭上を飛んだ。
「む」
レインコートの何かは怪異と同じような雰囲気があったが、その中に人の生命エネルギーも感じ取れた。戸惑っていると、レインコートは女の子を抱えて向かい側の歩道に渡っていた。
「貴様の正体は……!?」
「日比野隼人!」
レインコートは俺の名前を叫んだ。
「俺の名前を言ってみろっ!」
「肉ノ家拓也か」
「ああっ」
「そういうことか。人に取り憑いて化け物にしてしまうレインコートの怪異」
「隼人くん、おばけアーカイブは大丈夫か?」
「ほとんどなくなってしまったので……新造したんだ。いまの名は『怪異保存機関のバージョン1』だ」
「それで?」
「『雨の小坊主』」
「雨の小坊主?」
「京都によく出没した妖怪だ。三つ目の妖怪。しかし形状でも変えたか?」
肉ノ家拓也はどうやら雨の小坊主に取り憑かれているらしい。形状を変えたからわからなかったのか。なるほど。それで、俺に救いを求めたわけか。
「しかしどうして取り憑かれたか」
「俺にもわからん!」
「意識はあるか」
「身体は動かん!」
「そうか」
レザー質の赤いブーツとグローブがざわざわと動いて、折り畳み傘の形状になった。
「これも俺にはどうしようもない! こいついっつもこうなんだ! 訳がわかんないよ!」
身体の支配権を奪われてるじゃないか。
「可哀想に」
ホラーといったらレインコートなので




