第59話 相棒
盛岡市西通1丁目──の、日比野家に戻ると、悠から手紙が来ていたらしく、千代子夫人がそれを渡してくれた。悠は、月に数枚手紙を渡してくれるのだ。弾くんと同じ中学に通っていて、いつも一緒らしい。いつも文の最後に「俺は元気だよ」と言葉が添えられていた。
「一郎くん、俺は元気に見えるか」
「栄養失調、拒食症、鬱、心的外傷後ストレス障害。それひっくるめて『元気』だってお前が思えるならそうなんじゃねぇの」
「そうか」
「大丈夫か?」
「大丈夫だ。見ろ。悠はいつも弾くんと一緒らしい。来年にはおめでたい話が聞けそうだ」
「お前、返事書けんの?」
「日本語、フランス語、イタリア語を含めおよそ4000の言語を完璧に記憶しているが、そういう点で言って『返事』というのを書けるかっていうことなら」
「わかった、わかったよ。隼人、そういうところだよ。いまのおまえが、クソみたいなコミュニケーションをしないかって心配してんだよ。嫌われるぞ」
「嫌われるからなんだ? 嫌われたくないために言いたいことも言わないなんておかしいとは思わないか?」
「お前悠のこと好きなんだろ? 友愛とかじゃなく、性的な方で」
「は? なに?」
「俺は偏見とかないから安心しろ」
「俺も彼もノンケだ。何を勘違いしてるんだ。ちなみに好きな女性のタイプは浅丘●リ子だ」
「そうかい」
一郎くんは襖を閉めてしまった。もう一度開けると、「なに」と腹立たしそうにしていた。
「課題ひとりでできそうか?」
「俺の! IQは! 400だ!」
「そうか」
その程度で何を言ってるんだ? と前は思ったが、どうやら記録として最高のIQは300にも満たないらしい。
「手紙ってどう書けばいいんだ?」
「は? そんなに頭が良くて『手紙の書き方がわからない』って? さっきのクソイキりはなんだったんだよ?」
「カッカするな。IQが低くなるぞ」
「……。なるほど。さっきのは交渉のつもりか。課題教えてやるから手紙の書き方を教えろってことか。それなら説明がつく」
つかないだろ。
「フィフティー・フィフティーじゃなくていいよ。俺はお前の相棒で、お前は俺の相棒だろ。お前にできることはお前がやればいいし、お前にできないことは俺がやる」
「そうか。うん。……ありがとう」
「じゃあ書いていくぞー」
「ありがとう」




