第55話 生徒名簿
盛岡市立城南中学校の風紀委員会は生徒の不良行為を生徒が取り締まる、というよりは、教師の手伝いを行って、その際に名簿を見ることがあるのだそうだ。風紀委員会担当の社会科の三村先生に頼むと、あっさりとその名簿を見せてもらえる事になった。
三村先生の外見的な特徴として、頬に大きな傷があった。40代の男で、その傷は昔イギリスに旅行に行った時に事故に巻き込まれたところで、その事故というのは海難でのものと思われた──彼は言わなかったが──きっとそうであった。
「日比野くん、何かわかるかい」
「急かすな。凡人はいつもそう急かす。頭が軽くってスピードが出てるのか?」
「隼人。やめろよ、怒るな」
「怒ってない。怒ってるフウに聞こえたか? ……なら謝る。ごめんよ。なるべく言葉を選んでいるつもりなんだが、いかんせん……いまは機嫌が悪くて」
三森……三村? 三田……?
ともかく、頬に傷のある教師は「かまわないよ」と言って、新たに3冊の名簿を机に置いた。
「生徒名簿。2014年と2013年、それと2012年の物だ」
「この名簿自体はいつからつけてんすか?」
一郎くんが頬傷教師に尋ねた。
「1980年からだな」
「ヒッチコックが死んだ年だ」
1ページ1ページ……頭に刻み込み、職員室から出る。
「生徒会にも話を聞きたいが……」
「今日は遅すぎたな。明日にするか」
「ああ。そうだな」




