第54話 後輩女子たちからの依頼
校門を抜けて、家に帰るまでの道を歩く。ミシミシと何かが軋む音が頭の中で響いている。まるで痛んだ板張りの廊下をつま先立ちで歩くような。心にもやもやとした物が張り詰めている。死体に綿でも詰めてるような。
「あのっ……あのっ……! 日比野先輩!」
「犯人は左利き。凶器は重みのある水筒。咄嗟に顔面をガードしようとして腹を蹴られた。犯人の歳は13歳ほど」
「えっ」
「……ごめん、ほんと悪い」
「どうした」
声をかけていた後輩女子数人は戸惑ったような顔をしていた。
「君を襲った犯人を探してほしいんだろ」
「なんで、わかったんですか!?」
「きみのその腕の動き。まずそれは何かからの打撃を受けた時に痛みを紛らわせるようなぎこちなさがある。なら打撃は確定。左腕のほうが若干ぎこちなさが目立つし、制服にも土の跡がついている。この偏りは犯人が左利きだっていう確たる証拠。重みのある水筒というところは、土跡のカーブや擦れからわかった。腹を蹴られているのはそのまま制服の腹についた靴跡からわかるし、犯人の年齢が13歳というのはその靴跡の付き方と角度からわかった。それで君はこれ以上どうしたい。先生にでもチクってこいよ。俺向きの話じゃない」
後輩女子たちは顔を見合わせて、口々に「すごい」と言い合っていた。
「その犯人についてなんです!」
「犯人探しに俺を巻き込むな」
「そうじゃなくて。この……桜子っていうコ、風紀委員なんです」
「だろうな」
「それで、何回か生徒の顔と名簿を見る機会があるである程度『この生徒は〇年〇組だな』っていうのがわかるみたいなんですけど」
「簡単に言え。俺はバカだからわからない」
「その犯人、見覚えがないんです!」
少し間をおいて。
「聞かせてもらおうかな」




