第53話 飯は心を育むんだ
「お前やっぱり疲れてんだよ」
一郎くんはそう言った。最近になると、一郎くんには落ち着きというものが芽生え始めていた。あんな事があったから大人になったのだろうか。両親が死んだ原因を作った男についてきてくれるくらいには男の中の男といった感じだった。かっこいいよな、本当に。
「毎日きっかり眠ってる」
「飯は?」
「俺は怪異の子だ。食わなくても死なない。君もだろ」
「でも飯は生きるためだけの物じゃない。飯は心を育むんだ。だからありがたいんだ」
「人殺しの心だろ」
一郎くんは俺がそういうと、いつも黙った。申し訳なかったけれど、これが現実というものだから、俺は遠慮なく本当のことを言った。お前が親友と思ってくれている男は、お前の両親を救いもしなかった愚かな愚かな愚かな悪魔だ。
「心を育むとか、ありがたみとか、俺には必要ない」
「最近は幸せは感じない?」
「感じて良い立場か?」
「幸せはみんなが持てる最高の武器だろ。ほら、お前の口癖。なんだっけ?」
「口癖?」
しばらく考える。
「そんなの忘れたよ」
一郎くんはしばらく立ち止まって、「そっか」とため息のように言葉を吐き落とした。
背負っていた学生用のリュックタイプのスクールバッグを持ち直して、また、歩き出す。
「でも、俺から言わせてもらえば」
「なんだ」
「お前ってホント、バカだよな」
そんな事。
「当たり前だろ」




