第43話 呪縛箱 4
滝沢市諸葛川の上を跨った道を過ぎたところで、車が止まって、道のわきに立っていた山猫さんに車を預けると、師匠は指示を叫んだ。
「虚偽校の2人はそのままペアで近くで怪しい動きをしている人間は居ないか調査、アーシは岩手山に向かう。弟子トリオは近くで凶暴化したナナシたちを除霊」
「ナナシって?」
「名前のない怪異。ヒーローものに例えたら量産型の戦闘員さ」
「なるほど」
「でも俺たち無いです。対抗手段が」
「除霊方法は隼人くんから聞いてくれ」
解散!
ということになり、まばたきひとつの間にみんな消えてしまった。車に戻って、シートベルトをしめていた山猫さんに声をかけた。
「武器とか無いですか」
「あー…………」
「無いんですね」
「すんません」
しょうがねぇよ、後出しだし。
「じゃあ2人にはこれから除霊の方法を教えていくね」
「頼むわ」
除霊の方法を教えた。
「──そのクレマン値の限界を超えたラハナー値を持つ怪異には対抗できないってわけか」
「そうなるね」
「霊能力って考えるとめちゃくちゃ興奮するな」
「厳密には霊能力ではなく『クレマン値を操作する技術』だけど、同意だね。」
俺が一郎くんの言葉に頷くと、弾くんが「きた」と言って空を見た。
「でも霊力纏うと頭に電流走るな」
「そういう特性があるんだね。大丈夫そうかい?」
「おう。じゃあやるか」
現れたのは極端に大きな男の姿をしたお化けだった。
「推理の時間だ!」
「俺できねぇよ」
「あばらの骨折! 視力は悪く、酒癖も悪い! 左利き!」
「死因は窒息死。おそらく死んでから長い間水の中にいたせいか死亡推定時間は察せない。が、他殺」
「鈍器はハンマー?」
「それより限定的なもの。そう、エッグパン」
「殺害したのはおそらく奥さんか」
「違う。姉だよ、一郎くん」
「それで、2人とも。クレマン値は?」
「「500から600」」
「じゃあ1ヘントラずつ出力を上げていけばいいわけだ」
ふたりは霊力を纏った。すると、赤い輝きとともに「ピカン」という弾けるような音が鳴った。ふたりとも頭に電流が走ったらしく「いてっ」と小さな声をあげた。
「こわいね……」
「はよやれ!」
「わかった」
クレマン値500ヘントラの霊力を纏うと、赤く輝き、頭に電流が走った。
「みなぶねには近づくなァっ」
「そんなデケェ声出さなくても聞こえてるよ?」
頭が痛い。
「どう戦う?」
男は生前武道の経験がある。それは歩き方と声の出し方のクセで分かる。武道経験者だが、空手ではない。では柔道か合気道。この中では前者だろう。柔道。柔道経験者のこの動き方から初動を考察すると──。
「掬投!」
「右ストレートじゃねぇかバカ!」
「あァ?」
おばけは右のストレートを放ってきた。それを回避して、手首をつかみ、肘に手のひらを押し当てて関節を外した。
「やっぱ鳩汰さんほどは観察眼に優れてないらしい」
「仕方ねェだろ、喧嘩なんてしたことねェんだから! おい一郎くん! 右のあばらに縦拳! 弾くんは左肩をとにかく破壊!」
「オッケー」




