第40話 呪縛箱 1
虚偽校という組織があるらしく、その組織から男女がひとりずつ家にやってきた。虚偽校に所属している人間はエージェントと呼ばれ、防護服のような革製の黒いスーツを着ている。
「君が滝隼人くんか。我々はシラキとアサオカだ」
男のほうがシラキ、御婦人のほうがアサオカというらしい。ふたりは師匠が到着すると、そこでようやく横に置いていた手土産を此方に渡してきた。師匠の視界を通していれば、ある程度「おかしなことはしていない」とわかるから、らしい。
「それで、ふたりもよこして虚偽校は何をしようっていうの。隼人くんまで巻き込んで。アーシだけじゃ不安かい?」
「そうじゃない。今のうちに約束をつけておけ、というお達しだ。もし君も『山城の系譜』だった場合……滝くんを受け入れるところが必要になるだろ」
「山城の系譜って?」
「んー秘密」
「受け入れるってなんですか?」
「私から説明します」
アサオカさんが説明してくれるらしい。
「祓い屋育てる学校です」
「はぇー」
アサオカさんが説明してくれた。
「えっ、俺そこに入れられるんですか?」
「万が一があったらね」
「万が一があるかもしれないんですか?」
「あるかもしれないのが祓い屋だ。君、アーシが死んでも泣くなよ」
「なっ……いやっ……泣きませんよ……泣かねぇわ!!」
「たぶん泣く人の言い方だね」
すごく恥ずかしい。物凄く懐いていることがバレてしまった。
「それほど慕ってくれるのは嬉しいが、『公』と『私』を分けなさい。死んでほしくない人が死んだというだけで心が乱される事など無いように」
「そういうの無かったんですか、師匠には」
「無かったね。『ああ死んでしまったのか』とは思ったが」
「そんな。あんまりだ」
俺が言うと。
「でも実体験だ」
師匠は言った。
「……ともかく、我々は滝くんの特別な才能を認めています。ゆえに『もしも』の先を相談しに来たわけです」
「アーシからしてみれば……『もしも』がなくとも、受け入れてほしいところではあるね。あと数カ月もすれば、それこそ虚偽校の入学資格である『16歳』を迎える頃にはひとりで除霊できるくらいにはなるだろう」
「では入学しなくてもいいのでは?」
「生徒ではね。教師役にぴったりだろ」
なんて傲慢な人!
アサオカさんは驚いたように呟いた。




