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空想怪奇ラフ  作者: 蟹谷梅次
空想怪奇ラフ 呪縛箱
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第36話 師匠

 師匠に呼ばれた建物に行くと、玄関わきには「千葉」という表札があった。師匠の家なのだろう。ドアチャイムを押して、玄関ポーチのところでしばらく待つと師匠の弟であるという千葉霧彦(きりひこ)という人が通してくれて、師匠の部屋まで案内してくれた。師匠は俺を一瞥すると「座りたまえ」と尊大に片手を上げた。


「医者になるんですか?」

「なぜ? アーシが医者?」

「だって」


 師匠は丸い座卓に肘をつきながら医療に関するいろいろな本を読んでいた。


「ああ、これかい」


 師匠は珈琲を飲んで、鼻をすすった後に言う。


「近々人を改造するのでね」

「人を?」


 本棚を見てみると、何も入っていなかった。


「ああ。……その話もしておくか」


 師匠は立ち上がると、なにもない本棚を手のひらでなぞる。すると、まるでファイルか何かがあるような手つきで、虚空をつまむ。


「2001年11月28日生まれ。身長は145.8センチメートル。体重は37.5キログラム。両利き。視力は両方10.0。聴力は『蟻のわずかな歩数の違いを聞き分けられる程度』。嗅覚は凡人の7倍程度。IQは現時点で600……鳩汰の6分の1か。好きな女のタイプは浅丘●リ子。好きな男は福井悠。惹かれた理由は……」

「俺ですか?」

「ん? ああ。当たり前だろ」

「当たり前? そうですね。そうですよね。……俺は改造されるんですね」

「どうやってエクストラムマンになるつもりだ? 君はまだエクストラムの輝きに選ばれていないのに」

「エクストラムマンになる改造?」

「君の胸にこれを埋め込むんだ」


 ランプを思わせる銀色の装置があった。


「これは『常理箱(とこりばこ)』という。異理箱に極めて近しい性質を持つが、むしろ真逆。見てろ。『匣鉄(ごうてつ)』」


 師匠が唱えると、常理箱というらしいそれに光のラインが走って、電流が走った。


「石は見たことあるから理屈はわかるな?」

「生体電気? 常理箱は人体の再現?」

「いかにも! 常理箱は大昔『生き木箱』と呼ばれていてね。これは錫と鉄の2層構造だが。生きているという特性を利用するわけだ」


 その後も、師匠からある程度の説明を受けて、変身のメカニズムを完全に理解した。「サブ」の方に移しておこう。別館というのは、俺の頭の中にある「47個目のインターネット」の事だ。1から46は「メイン」で、おもにおばけアーカイブとしてつかっているが、47はおばけアーカイブ以外の重要なことを覚えるために使っている。中身は……秘密だ。


「エクストラムマンになれば、常人の倍以上のパワーを得る。気に入らない奴をバッタバッタと殺戮できる。でも、忘れるなよ、隼人くん。本当に大事なのは、君という存在が、正義の味方であるということだ」


 師匠らしからぬ発言に、思わず師匠の方を見た。師匠はいつもの様子だったが、一瞬だけ師匠の背後に謎の景色がカメラのフラッシュのようによぎって、後に消えた。


 今のはきっと、師匠の状態を見てしまったんだ。師匠の身体は前々から気になっていたが、傷が多すぎる。おそらく2年ほど昔にできた傷だろう。小口径の銃や、ナイフでできた傷の後を思わせる動作をたまにすることがある。おそらく完治はしていなくて、衣服に触れると痛みが走る。だから比較的ゆったりとした物を着ている。つまりはだけた和装。羽織りはせめてもの寒さ騙し。2年前の傷。


「震災の年に京都で何を?」

「奈良だ。ケアレスミス! 奈良人と京都人は少し痛めつけ方が似ているからね。奈良で師匠と呪術師の集団と徒手空拳で戦っていたら、巫女の集団に銃とナイフで乱入された」

「その時の傷? じゃあ、腰痛もその時?」

「腰痛は去年。フランス語を話す人間とロシア語の国で戦った。君は鳩汰ほど観察眼に優れているわけじゃないらしいな」

「でもそのフランス語を話す人間の生まれはおそらくカナダ。身長は190程度。利き腕は右?」

「鳩汰のブログを読んだ?」

「はい」

「知識のひけらかしは良くない。しないようにしな」


 師匠はある写真を俺に見せてくれた。それはギャルのような恰好をした妙齢の御婦人。


「これはアーシの師匠。風見由花子。狐に取り憑かれて家に閉じ込められていたアーシを助けてくれた」

「それで、その風見…………風見……」

「由花子」

「ユナコさん」

「由花子」

「由花子さんは現在はどうしてるんですか?」

「んー……ひみつー……」

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