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空想怪奇ラフ  作者: 蟹谷梅次
空想怪奇ラフ 呪縛箱
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第32話 雪の精霊

 令和14年。冬の暮れ。怪談収集家として本を出そうというとき、編集の小西(こにし)が「どうせだから、本物の祓い屋にお話でも聞かないか」と言うから、東北を主な活動圏域にしている祓い屋の滝隼人さんに話を聞くために、岩手県の灯火(ちんこ)市に向かった。滝さんは2児の父で、その日は休日だったため、家には長男の昭次(しょうじ)くんが居て、奥さんは次男の伸次(しんじ)くんを抱えていた。


「怪談収集本を書くためにアーシのところへ?」

「ええ。うん、はい」

「ほんとうの祓い屋がこれまでに遭遇した怖いおばけの話を載せたいのです」

「それは面白そうだ。アーシは昔からおばけが好きでね。そうだ。昔、ちょうど今ごろの季節だったね」


 滝さんは先日の盛岡市の駅火災の影響で顔を包帯で隠していたが、目元は微笑んでいるように見えた。防護服のようにも見える黒い革のジャケットに、白い羽織を着ていて、ジャケットの胸にはLAUGH(ラフ)というマークが入っていた。


「これは小学6年生の頃に経験した話です」



 ◆



「一郎くんちょっと待って。ペースが速すぎる」


 その日は、雪が積もっていて、俺と一郎くんは父さんと雪かきをしていた。一郎くんの家は俺の家からそれほど遠くないところにあって、つまり、「昨日は俺の家を手伝ってもらったから今度はお前の家を手伝うぜ」というアツい友情だった。


「お前力ねぇなー」

「昨日のバスケの筋肉痛が……」

「貧弱なんだよっ」

「否めないが……」


 知恵の俺、力の一郎。そういう配分な気がしてきた。神様仏様。見ているなら分かっているでしょうけれどね、俺も力が欲しいです。


「やっと家の前の雪なくなったところだぞ」

「わかってるよもー」


 冬は寒い。東北だから、なおさら寒い。でも、こうやって雪かきをしていると、防寒着の下は真夏の方が快適かというくらいの汗をかく。シャツが背中に張り付いて気持ち悪いから、時折肩を上げたり背中をつまんだりしながら、雪を流雪溝に落としていく。隣の家の松田さんはとうとう除雪機を買ったらしい。


「あっついな……」

「風邪引きそうだよな」

「うーむ」


 スコップを忙しなく働かせながら、詰めた息を吐き出した。


「よーし! 隼人! 一郎! ふたりともよく頑張った! 家に入って、温かいココアでも飲もう!」


 父がそう言った。父は全く疲れていないように見えた。それもそうだ。父は刑事で、身体をよく動かすからその関係もあり、身体を鍛えることもあって、体力等が有り余っていた。


「雪だるま作るわー! 隼人と伯父さんは先に中に入ってて」

「風邪ひくよ」


 と、父が言う。


「バカは風邪引かねぇんだわ!!」


 と、一郎くんが言う。


「俺もやるわ。一郎くんに負けぱっなしでいてたまるかっ」

「やるか、隼人」

「やるさ」


 俺たちは少し幼かった。とにかくやりたいことをやる主義で、昔からその場その場の感情でやりたいことを決める。例えば目の前に殺人鬼がいたとして、その時俺たちが「飯を食いたい」と思えば、殺人鬼を打ちのめした後で飯を食いに行くだろうと思う。


 俺たちは雪だるまを作った。大きな雪玉が2つ。それを、庭に置いた。


 そして、その次の日のことだった。一郎くんが雪だるまを滑ったかなにかで誤って壊してしまった。異変を感じたのはそこだった。割れた雪玉が赤くにじみ始めたのだ。そして、一郎くんが小さなスコップでそれをどかしてみると、臓物が入っているのがわかった。そして、なにかの皮のようなもの。つまり、皮膚だ。雪玉は内側にべっとりと皮膚が張り付いていた。犬だ。犬の皮膚と……犬の内臓。一郎くんと俺は、雪玉に犬を閉じ込めるなんて酷い事はしない。どうするか悩んで、師匠を呼んだ。師匠はその臓物をゴミ袋にいれると、赤く滲んだ雪を、流雪溝に落とした。


「その死体はどうするんですか」

「死体? 死体なんてどこにある」

「え? でも」

「これは生きてるよ。この街に昔からある事だ。これは雪の精霊だ」


 雪の精霊は極稀に……霊力を持つ人間の雪いじりに乗じてこの世に生み出される生命のバグのようなおばけらしく、この場合、雪だるまが子宮のような役割を担って、犬の姿をした子供──つまり雪の精霊を生み出したのだ。


「勿体ないからこちらで人工筋肉などを組み合わせて犬として作り直すよ。隼人くん、君犬は好きか?」

「え、あっ、まぁ……」

「つくるからね〜」

森口博子さんの「鉄の約束」が好きです。

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