第29話 除霊
「バーミンガム」を出て、師匠と俺は志村さんの家に行った。その家は……先週の黒申教の事件で、師匠が唯一の住居者である志村香苗さんを殺したために住居者がいなくなったために売りに出されており、どうやら、師匠が購入したものであるらしい。志村誠くんのお父さんは「手の横に目がある」などと不可解なことを言って、精神の病院に入院させられているらしい。
「この家で無害化を?」
「ああ。此処は田圃に囲まれているから、人目がまず少ない。あるとしたら耄碌一歩手前の老農家。田圃を挟んで隣に住む住人も軽度の認知症を患う老婆とその孫。孫の方は鬱になっている。何かを見られたとしても『幻覚』で誤魔化しが効く」
隣家の人には、あとでなにか手伝えることがあったら手伝おう、と誓った。
「ところで一郎くんはどこだ? 一郎くんも生き猿の血が入っているんだから、こういう事には顔を出すようにと言わなかったかい?」
「今日はサッカーの習い事があるって」
「サッカーの習い事? おい待てよ。君たちバスケットボールの習い事をやってたろ。あの子はそれに加えてサッカーまで? ボールを投げたいのか蹴りたいのかどっちなんだ?」
「俺に言わんでください。あと俺も午後からバスケですよ」
「アーシが送り迎えするって君のご両親に頼まれてる。まったく嘆かわしい。アーシはタクシー運転手じゃないし馬車の御者でもない。祓い屋だ!」
「俺に言わんでください。両親は共働きなんだ」
「それは立派なことだ。……ふむ……」
なにはともあれ、無害化──つまり、異理箱の除霊が始まった。師匠が10帖のがらんどうになった和室に異理箱を置き、そして手をパンと打ち鳴らす。すると──……。
ガタガタガタ!
と揺れだした。
「うおっ」
ピグさんのような……だけど、腸のようなものが絡まりついたピグさんとは思えないおばけが生み出された。
「これは……」
「箱の中身は水子の一部だ。水子の霊であるピグ──飛狗様が現れるのは当たり前だ。しかし……だいぶ汚れを吸っているらしい。見ろ。あれは腸だ。生き物になろうとしているんだ」
「生き物に?」
「生き猿が人間から怪異になったように、怪異も怪異から人間になることが出来るんだ」
目に見えない力の圧の様なものに押される。尻もちをつくと、師匠は懐から、石を取り出した。宝石だ。その宝石は呼吸でもするように輝きを疎らに放っている。
「部分変身……腕部……」
そう唱える師匠の腕には見る見るうちに赤黒い筋肉に包まれていく。そして、その上にプロテクターのような皮膚が覆いかぶさる。
「それがエクストラムマン……!?」
「ああ。これはまだ部分変身で、全身を変身させると、まだエクストラムの輝きに選ばれていない君には悪影響が及ぶ可能性があるために、この形式をとる」
師匠が部分変身した腕を突き出すと、力の圧を感じなくなった。そして、ほっとため息をついている間に、師匠は異理箱を掴み、そして、引き裂いた。
「ええっ。力技だっ」




