第26話 物売り市 2
ちなみに師匠が出品しているのは、師匠が趣味で作った木彫りの人形。大人気ゲームの主人公や大人気ゲームのモンスターや大人気の外タレネズミの木彫りを売ったり、オリジナルで小さな仏様を売っていたり。仏様は老人を目当てにしているのか、最高額1万で他のパロディ木彫りは500円から1000円とお買い求めしやすい価格で販売している。とても人間が嫌いとは思えないような値段だ。
そもそも師匠って本当に「人類の敵、怪異の味方」なのだろうか。祓い屋やってるし。たしかに有り得ないくらいイカれてるけど、こんな冬の日に小6の子供を4人も預かるほど面倒見もいいし。なんか児童養護施設の子供たちにも好かれてたし。師匠は悪人ではあるけど「人類の敵」と言われるほど悪であるとは思えない。
一人称「アーシ」だし。
「……師匠さん遅くね?」
「たしかに……」
「でっかいうんこしてんだよ」
「うんこかおしっこか賭けようぜ」
「師匠たぶんうんこもおしっこもしてないよ。あの人は屑だから多分おばけ見つけたんだろうね。俺に知らせまいとしてるんだ。あの人はよく言うよ『早いもの勝ち』だって」
「追いかけたいの?」
「追いかけたいね」
「行ってきなよ」
「いやっ………………。…………。…………。流石に……行かないぜ」
「長考だなぁ」
そんな感じにしていると、ガラの悪そうな男がやってきた。
「悪ィけどこの木彫りのネズミさァ、100円にしてくんねぇ?」
「300円です」
「値下げしてくんねぇって。頼むよおぼっちゃん」
「300円です。頼みます」
「100円玉3枚出すだけだぜおっちゃん」
一郎くんがゲーム機を弄りながらそんな事を言った。
「値下げって知らねぇの? 俺値下げ交渉してるだけだよな。お前らの親の教育どうなってんの」
「非常に良く行き届いてると思いますけど」
「いいや。いいや? 全然だわ」
そこで悠が言う。
「やめろよお前ら……。滝家ってどうしてこう、喧嘩っ早いのか。ごめんなさい、俺たちじゃ値下げとかそういうの判断できなくて」
「だったらァ……ウダウダ言ってねぇで値下げしろって言ってんだよボケッ!! うちの次男がよォーっ! 欲しがってるって言ってんだよボケッ!!」
悠に怒鳴ったのか。
ふむ。
「たった300円も支払えない癖にでかい声ばかり出るんだな。お財布だけじゃなくて脳みそも空っぽか? 怒鳴ってんじゃねぇよハゲ」
「やめろって隼人〜」
「払えねーなら回れ右してダンボールハウスにでも帰れ。ゴムの使い方が分からなかっただけとは言え、生まれた子供が可哀想だ。恥をさらしすぎだぞお前」
「隼人!」
「んだこのガキィ! テメェに俺の何がわかんだ!? あぁ!?」
「年齢は47歳。おそらくバツイチ。不倫しているがその事を奥さんには隠しているらしい。おそらくバレたときの言い訳は用意していない。不倫相手は同性。膝と肘、また手首の状態からして昨日は『犬の真似事』でもしてたか? 四つん這いで。顎の具合からしてとても大きな骨も咥えたらしい。ちなみに奥にいるのはあんたの奥さんか? あの人も不倫してるね。歩き方から一昨日にも会ってるよ。相手の年齢は20代前半。問い詰めてみな。きっと大当たり。あとお前の長男くん。……あんた、息子に手ェ出すのはいけないな」
男は顔を青くした。
「なんだてめぇ!!」
「人類の敵。友人の味方。滝隼人。わかったら消えろ。ああ、それと死ね。俺の大事な人に手を出されるかもしれないと思うと……フーム。殺しておいたほうが得策かもしれないけど……」
「ヒッ……」
男は消えてしまった。
「弾くんも人が悪い」
「300円ゲット〜」
「お買い上げありがとうございます、だね」
視線は俺に釘付け担っていたし、ここは人通りも多かった。そもそもこんなケチっこい事をするような人間は恥ずかしさも勿論持ち合わせている訳が無いから、人波に紛れることが多い。となると、金を財布から抜き取り、持ち物の中に木彫りを紛れさせる事となると、かなり容易となる。弾くんはそういう事が得意になったらしい。先週の黒申教の騒動のとき、リサイクルショップでの行いが彼の才能を覚醒させたのだ。
「なぁ隼人……」
「なんだい?」
「犬の真似事って?」
「…………」
「骨とかも良くわかんない」
「おっ、俺が身を以て教えようか……!?」
一郎くんに頭を叩かれた。
「結局なんなの」
「さっきの人は犬のきぐるみのプロってわけだ」
「遊園地の従業員か〜」
「そうなるね」




