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空想怪奇ラフ  作者: 蟹谷梅次
空想怪奇ラフ 爛れたタイムレター
23/100

第23話 追いついた

 怪奇よりも恐ろしいものは人の心というが。


「やはり師匠、あんた最低だ」

「そうかなぁ」


 なんでもないような顔をして、師匠は池の欄干に手を出すと、覗き込んで、呟き出した。


「君なや 生きなや 死なずが嫌 走らせ 走らせ 貧の子や 黍立て 揺らぎ 天命草 かくや 裂くなや 身命せい 冬景 吐く無き 或寒光」


 車の中で眠っている悠の両親は無事だったのだという。悠は師匠の肩の上でぐっでりとしていた。眠っているだけのように見える。よかった。眠っているだけならばそれでいい。


「知ってるかい? これはねぇ、罪人が遺した言葉でねぇ。アーシの師匠いわく……この罪人というのはねぇ、冤罪だったんじゃないか、という話だよ。古い記録でね、『見世物山』が始まる少し前まで福島県の古い農村に住んでいたらしくてね。当時の記録によれば、罪人は池首に来る少し前に『高い給金の仕事に誘われたから岩手に行く』って言っていたらしくてね」


 冤罪?


「知るかっ。悠を降ろしてくださいよ。なあ、降ろしてくださいよ」

「何故君の家──滝家が『クロギ』と呼ばれているかわかるか。君の頭じゃ『クロギ』の由来くらいには気付いて居るだろう」

「それがなんですか。なんでうちがクロギなんですか」

「君が罪人の子孫だからだね。人間のうちに出来た子孫ならまだ良かった。でも残念だけど、君は生き猿と滝涼子の間に出来た子孫だ」

「だから?」

「……まぁ、君、骨折って何ヶ月で治るか知ってるか。アーシが調べたところによると4ヶ月以上? 5ヶ月以下? ──というところらしい。君、実はもう腕、完治してるだろ。自分でも半ば気づいていたんだろ。自分の再生能力。だから治っていないことにしたんだ。答え合わせがたくさんできてよかったな」


 拳をパキパキと鳴らしてみる。


「で?」

「目つきが変わったね! もう少しだ! アーシはね、ずっと探していたんだ! 君のような人間を! 君はエクストラムに選ばれることの出来る人間だ。わかるか、エクストラムだよ」

「岩手県と宮城県の上空で観測された不可解極まりない超自然的な発光現象だろ」

「さすがのおばけアーカイブだ。それで、そのおばけアーカイブには『エクストラムマン』のデータあるか?」

「エクストラムマン?」


 聞いたことのない、ぞわりとする言葉。


「怪異と人の両面を持つ怪人だ。アーシはそのエクストラムマンになることが出来る。いまはまだその光を見せてやることは出来ないが……似てないか。怪異と人の両面を持つ君と……」

「俺は人だ。お前とは違う」

「そうだ。君は人だ。しかし君は不可解極まりないが怪異の力を再生力という形で出している。『生き猿』が由縁か?」

「俺に関係のある話をしろよ」

「してるだろ」

「マヌケにも分かりやすい言い方をしなくちゃダメか? そうだよな。俺からしたらお前のいままでの話は『アーシの言葉はかっこいいでしょ!』……なんていう自慢にしか聞こえない。関係ある話も出来るよな。その子を放すのか? 放さないのか? 放せないのか? 放せるのか? それだけを言え。その子は丁重に扱えよ。その子は俺にいろいろな顔を見せてくれる。いろいろな顔にしてくれる」

「この子は猿の餌にする」

「そうか」

「君はいまアーシの状態を見ているね。開示してやる」

「必要ない。肋骨、ならびに右腕に損傷。おそらくヒビが入っている。右足にはおそらく鬱血。蹴られたらしいな。脚の動かし方、その状態から見て、おそらくは40代の女性。その女性はおそらく出産を経験しているんだろう。となると、黒申教の関係者。黒申教は『子を失った親』で構成されているはずだからな。40代、子持ち、黒申教の信者となると志村香苗か。しかし志村香苗は躊躇ったらしい。もともとやるつもりはなかったか、それとも途中で何か邪魔が入ったか。おそらくは後者。痛みの入り用からして邪魔が入った。おっと師匠、窃盗は犯罪だ」

「何故『何かを盗んだ』とバレた?」

「簡単な話だ。俺の推理の途中でしきりに懐を気にしていた。あんたのその羽織には内側にポケットが2つある。サイズからして入るものはカード。免許を取ったか? 羽織の傾きでもわかったぞ。賢いのに分からなかったんだな」

「お見事」


 師匠はようやく悠をおろした。


「事件は解決している。あとは黒申教をどうにかするだけです。師匠」

「それはアーシでどうにかしよう。アーシは破壊しか出来ない怪人エクストラムマンだからね」


 頭が痛い。慣れないことをしたせいだ。……師匠や鳩汰兄ちゃんはこれを常時やっているらしい。天才ってほんとうに大変だな。こんな状態を365日24時間続けていたら、俺だったら目鼻口から血を吹き出させてしまう。

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