第17話 追え! 2
隼人の師匠──という人いわく、滝家・福井家・萩野家は何か同一の「大きなこと」に関わっているのだそうだ。隼人は師匠さんに「やっぱり出る幕は無さそうだ」と言われて拗ねているようだったけれど、俺は「色々使えるぞ」と連れ回されていた。
母さんが運転する移動中の車内にて。
「君はあの子好きかい」
「あの子って隼人のこと? 好きっすよ」
「そうかい。それはよかった。両想いだ。人はね、護る物があると強くなれるんだ。何も護らず戦うばかりの人間はかっこいいかい?」
「ダサい」
「だろう。福井悠くん、その点あの子はかっこいいやつだ。何があっても揺れない鉄の心。人のことを愛することの出来る慈愛の心。そしてなにより、遺伝子的に勝っているフィジカルの成長性」
師匠さんは隼人のことが自慢で仕方がないのだろう。俺に隼人の凄さというものを熱弁していた。
「でも、もしかしたら、一度だけ……闇に堕ちる事があるかもしれない」
少し悲しそうな声でそう言った。
「彼はね、アーシの師匠によく似てる」
「えっ、師匠いたんすか」
「いたよ。いた。でも……家族がね、殺されてしまったことがある。その時に人類を恨んで、恨んで、恨んだんだ。アーシのように理屈ではなく感情で。アーシも人類は嫌いだった。だが、師匠のような人類を愛する優しい心が好きだった。あの子は師匠によく似てる」
助手席にいた父さんが「あっ」と声を上げた。
「あれを見ろっ!」
窓から外を見ると、つるっぱげの女が電柱に何かを貼り付けているのを見つけた。その何かを見ると、「まくろ様」の紙だった。
「このまま轢くわよ!」
ダメだろ。
結局その女は此方が見ているのに気が付くと、走って去っていってしまった。追いかけてはみたが、曲がり角のところで見失った。師匠さんが先程の紙をよく見たいと言うから、電柱のところに戻る。
「まくろ様とはなんだろうか……隼人も連れてくるべきだったか……?」
「あっ、でも前『知らない』って言ってました。誰かが作ったオリジナルの神様なのかな、とか言ってました」
「フーム。では、とりあえず聞き込みをしてみるべきだね」
師匠さんは「写真を現像したい」と言った。手にはカメラが握られていた。
師匠さんの通りに現像を店に持っていって、近くにあったコンビニでおにぎりやパンを買って昼食。師匠さんは食べなかった。「食わないんすか」と尋ねてみると「他所様が作ったものを口に入れるのは気が引ける」とニコニコしながら言っていた。そういう師匠さんの黒い羽織ははたはたと風もないのに揺れていた。