表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/44

冷たい水

 フェアラート公爵邸は、王都から一日かけて行ったところにある。王妃の追手が来ることを懸念して、休みもほとんど取らずに私は馬車でジェイド様とフェアラート公爵邸へと逃げて来た。


「リラ様。どうぞ」


 馬車の扉が開けられると、ジェイド様がエスコートしてくれる。


「大きなお邸です……」

「今日から一緒に住むんですよ。あなたの家になるんですから」

「……ジェイド様。でしたら、どうぞ敬語はご遠慮ください」

「いいので?」

「もちろんです」


 にこりと言うと、ジェイド様も笑顔を見せた。


「しかし、リラ様は騎士たちの憧れの的でしたから……」

 

 ジェイド様が悩ましげに言う。


「そんなことありません」


 そのおかげで、何度も色目を使っていると周りから侮蔑されただろうか。

 珍しいライラック色の髪に瞳。周りからこの容姿のせいで、嫌厭されてきた。それと同時に好奇の目にさらされた。おかげで、フィラン殿下の目に留まってしまった。すぐに婚約を結ぶほどに……。


「手が、震えています」


 ジェイド様に触れられている手を下げて、慌てて自身の手で隠した。


「すみません……」


 ジェイド様も、私の噂を知っているのだろう。いいや、間違いなく知っている。腹立たしいほどに。

 今もジェイド様は憂いを滲ませて私を見ている。


「いつか、震えが止まるように努力いたします」

「そうだといいです」

「では、先ずは邸に入りましょう。すぐに食事をお持ちします」

「嬉しいです。塔のなかでは、味気ない食事でしたから」

「期待してください。フェアラート公爵邸の料理人の腕は確かですから」

「はい」


 ジェイド様に促されるままに、私は初めてフェアラート公爵邸へと足を踏み入れた。ジェイド様は終始優しい。食事の間も私を気遣い、食事が終われば部屋へと案内してくれる。


「このお部屋を使ってもいいのですか?」

「もちろんです。必要な物もすぐに揃えます」

「私、何もいりませんよ? 匿ってくださるだけで……」

「そういうわけには……婚約者に苦労を強いるつもりはありませんので」

「……いつか捕えられるかもしれませんよ?」

「王妃には、二度と手を出させません。必ずあなたを守ります」


 そう言って、ジェイド様が私の手の甲に口付けをする。嫌悪感があった。顔も見せなかった男に襲われた時のことが脳裏を掠る。


「……では、おやすみなさい。ジェイド様」

「はい。おやすみなさい。リラ様」


 名残惜しそうなジェイド様に見送られながら部屋に入り、洗面所へと向かった。蛇口を捻ると冷たい水が勢いよく流れ出る。その勢いよく流れる水に両手を突っ込んで、狂ったように洗い、勢いよく顔を水で洗った。


 __今にも、泣きそうだ。


 いつ王妃が私を殺しに来るかわからない。フィラン殿下の仇をあの王妃が見逃すわけがない。それ以上に私を憎んでしまっている。


 あの事件が起きて何もかもが変わってしまった。すでに、私に純潔もない。でもいい。必ず自分の潔白は晴らして見せる。


 鏡を見れば、釣りあがった自分の眼と視線が合った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ