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儚いアイリス

 

 フェアラート公爵邸から帰還すれば、すぐに陛下の元へと向かった。陛下の執務室へと続く長い廊下を歩いていると、待ち構えたようにアイリスがいた。


「ブラッド殿下……」

「アイリス嬢。どうかなされたか?」

「あの……、私……」


 不安げな面持ちで立ちつくしているアイリス。


「王妃の差し金か? それとも、ウィンシュルト公爵か?」

「……っ」


 びくりと身体が震わせるアイリス。彼女は一人で何の考えもなしに来るわけがない。アイリスは、良くも悪くもお嬢様だった。自分から何かをするなどしない。


「その両方か……」


 眉を釣り上げたままで、アイリスに手を伸ばした。彼女は驚いて後ずさりする。壁に手を着くと俺と壁に挟まれて逃げられないアイリスが身体を震わせて見上げた。


「では、フィラン殿下を夢中にさせたように、俺も口説いてはくれないか?」

「わ、私……本当に何も知らないんです……でも、私とブラッド殿下の婚約を進めると王妃様が……」


 それで、俺がアイリスに夢中になるように口説いてこいとでも言ったのだろう。バカなことを。そんなことでフィラン殿下殺人事件の犯人をリラにするわけがない。いや、王太子となる実権に少しでも自分が関わるためだろうか。そのどちらにも思える。


「アイリス。助けてほしいか?」

「……っ私、でも、お父様が……」


 涙目のアイリスが頬を紅潮させてこちらを向いた。腰に回した手に力を入れて引き寄せると、照れたようにアイリスの身体が捩れる。耳元で囁き話しかける。逃げようとして否定的な言葉を口では言うも、彼女は逃げない。抵抗する手など弱々しいものだった。


「や、やめてください……」

「アイリス。ウィンシュルト公爵と王妃から離してやろう。どうだ?」

「む、無理ですっ……お父様たちに逆らうなど……」

「無理ではない。君に相応しい場所を用意してあげる。君は俺の味方だろう? アイリス」

「……ブラッド殿下……」

「俺が嫌いか?」


 弱々しい声は甘い吐息なのだろうか。そっと頭を左右に振ったアイリス。彼女は、腕の中で赤ら顔のままそっと頷いた。





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