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殿下暗殺

 目が覚めれば、血の匂いがした。

 倒れていた身体を起こせば、両手は血に染まり、血の付いたナイフを持っていた。視線を上げれば、目の前には胸から血を流しているフィラン第一王子殿下が倒れていた。


「……フィラン殿下?」


 持っていたナイフが力なく手から落ちた。カチンと音がする。そっと、フィラン殿下に近づくと、見開いた眼には光はすでに消えていた。


 __殿下暗殺だ。


 そう思った瞬間に、そっと忍ぶように扉が開かれた。

 やって来たのは、フィラン殿下の新しい恋人のアイリス・ウィンシュルト伯爵令嬢。彼女は、絶命しているフィラン殿下と彼のそばで血まみれの私を見て悲鳴をあげた。


「キャアァァーー!! で、殿下――!? だ、誰かーー!!」


 青ざめて部屋の扉を開けたままで飛び出して行ったアイリス。彼女は、私と同じ聖女。でも、彼女は血に驚き、いやフィラン殿下の暗殺であろう瞬間を目撃したせいか、心乱していた。


 これで、私__リラ・リズウェルは、私の元婚約者であるフィラン殿下殺害の容疑者になった。



 クラルヴァイン王国。聖女のいるこの国は緑あふれる豊かな国だった。

 私__リラ・リズウェル伯爵令嬢は、幼い頃から魔力を持ち、聖なる光に守られていた。


 そして、珍しいライラック色の髪を持つ私は、フィラン殿下の目に留まった。彼は、正妃の産んだ唯一の王子であり第一殿下だった。

 少し頼りないながらも、正妃に大事に育てられたフィラン殿下は優しく、暇さえあれば私に会いに来るような王子だった。


 その彼に、一か月程前に婚約破棄を言い渡された。


「婚約破棄……?」

「そうだ。理由はわかるだろう」

「あの事件のせいですか?」

「そうだ」


 思い出したくもない事件だ。不快感を滲ませて、スカートをギュッと握りしめた。


「リラ。わかるだろう……君はもう純潔ではない。そんな令嬢と結婚はできないのだ」


 婚約破棄される数日前、私は襲われた。夜会で飲んだお酒に意識もうろうとして、気がつけばどこかの部屋に連れ込まれていたのだ。必死で抵抗した。ドレスは裂かれて、顔もはっきりしない男の手で触れられた。偶然にも、その時に部屋からの私の悲鳴に気づいた第二殿下であるブラッド様が助けに入り、男は一目散に逃げた。魔法も使えたようで、煙のように逃げたのだ。


 ブラッド様はすぐに追おうとしたが、震える私を置いて行けず、彼は私を終始気遣って、その日は城の部屋で休ませてくれた。


 でも、いつの間にか、私が襲われたことは密かな噂になっていた。それが、フィラン殿下の耳に届くまで時間はかからなかった。


「醜聞は、父上も母上も嫌う。だけど、一時は婚約をしていたんだ。リラは、私の妾として後宮に迎え入れようと思う」

「私を後宮に……」

「そうだ。新しい婚約者のアイリスが正妃になるから、彼女を陰ながら支えてくれればいい。それに、すでにリズウェル伯爵家はリラの家ではないだろう。君は帰る家もないはずだ」


 私が後宮に入れば、無駄な縁談を探す必要も無くなる。いや、もうふしだらな噂が広がり、私にまともな縁談などないだろう。


 すでに両親は他界。リズウェル伯爵家は遠縁であった次の後継者が治めている。私は殿下の婚約者であったから、リズウェル伯爵家をすでに出ており城に住んでいた。

 近いうちに、私は城を出る予定だったが……まさか、フィラン殿下が後宮入りを望むとは思ってもみなかった。

 反対する人はいない。だけど……。


「フィラン殿下。謹んでお断りいたします。私には、後宮に入る謂れは無いのです」

「後宮に入りたい女はいるんだ。それを、君にために言っているんだぞ。噂を忘れたのか? あんな噂が広がりつつあるあるんだ。もう、リラに結婚など無理だ。だが、後宮に入れば、私の顔を立てて、噂だって止まるはずだ」


 本当にそうなのかしら?

 そう思っても、噂があるのは事実だ。私の純潔を噂されるなんて、不愉快そのもの。


「でしたら、後宮に入りたい女に、妾の席はお譲りいたします。では、失礼いたしますわ」


 フィラン殿下に頭を下げて、踵を返した。


「リラ!! 待て!!」


 フィラン殿下は、私を引き留めようと叫ぶ。でも、私には留まる理由などない。彼は、新しい恋人のアイリスを選んだのだから。






新作投稿はじめました。

どうぞよろしくお願いします!


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