72.呪いを食って村を救う
木曽川のくそが余計なことしやがったせいで、呪物にかかっていた呪いが開放されているらしい。
ぱか、と俺は呪物を閉まってる蓋を開ける。
「なんだこりゃ……? 時計か?」
さびた懐中時計が入っていたのだ。
『おお! これは懐かしい!』
妖刀のアホが嬉しそうに言う。
その声、そしてセリフからして、これに心当たるがあるように思えた。
「これ知ってるのか?」
『ああ。【渡時機】だろう?』
「渡時機?」
『触れた物から時間を奪い、また、奪った時間を他者に与える』
……っつっても、あまり効果を想像できんな。
『近くにいるものの肉体の時間を進め、触れているものの時間を戻す』
「! それって……かなりすげえ呪物じゃないか」
『まぁな!』
なぜこの妖刀が得意げなんだ……?
『まあしかし渡時機には欠点がある。それは、どの程度の時間を奪い・与えるのか、己でコントロールできないということだ』
「くそ呪物じゃないか」
しかし、なるほどな。こいつの呪いの影響で、村長を含めた周りにいた連中の体から、時間を奪った(年老いた)。
結果、内蔵等にガタが来ていたってことか。
『渡時機で奪われた肉体の時間は、無害で戻すことができる。だが、渡時機が存在する限り、また同じことを繰り返すだけだぞ』
元を絶たないといけないってことか。
「ま、俺には関係ないがな」
この呪いがここにあろうがなかろうが、な。
とはいえ。
「なかなか使える呪物じゃないか」
俺は空中に呪物を放りなげる。
そして左手……黒獣の腕で、つかみ、捕食する。
渡時機の呪いが俺の中に入っていくのがわかった。
『なるほど。おまえ様は無毒の影響で、渡時機による時間の呪いを受けない。だから食っても問題ないわけか』
そういうことだ。これで、相手の肉体の時間を奪ったり、進めたり、とういことが自在にできるようになったぞ。
「勇者様。大丈夫なのですか? 呪物を食ったように見えましたが」
「ああ、問題ねえよ。俺は呪いがきかねーんだ」
「おおお! なんとぉお!」
村長が歓声を上げる。
「ありがとうございます! 勇者様! 我らを呪いから解放してくださって!」
「はぁ? 勘違いすんな。俺はただ、この呪物が欲しかっただけだぜ? 後から返せって言われても、ぜってー返してやらねえから……って、なんだよその目はよ」
シロも含めて、その場にいた全員がニコニコしてやがった。
「お兄ちゃん……優しい!」
シロのアホが妙なことを言ってやがる。
けっ。俺は別に優しい人間じゃねーっつの。
『村の連中がかわいそうだから、呪いを食い、この村を助けてあげたと、素直に言えばいいのにな』
うるせえ妖刀。




