67.エリスの気遣い
俺たちを乗せた竜車は西へ、神聖皇国へと向かっている。
「ダーリンにいっぱい可愛がってもらっちゃった~♡」
「しろも~♡」
アホエルフおよびシロが仲良く御者台に座っている。
「ダーリンってお上手だよね!」
「ね~!」
別に二人は姉妹でもなければ家族でもない。
が、どうにも仲が良いんだよなこいつら。
「ダーリンダーリン」
「んだよ……」
「ごめんねダーリン。かまってあげられなくって。夜にいっぱい可愛がってもらうから!」
「意味分からん……勝手にしてろ……」
俺は地図を広げる。
神聖皇国へはこっからずっと西に行く必要がある。
途中、人外魔境ってバカ広い荒野を経由する。
さらに海を渡り、西へ。途中、フォティアトゥヤァという島国をとおり、やっと神聖皇国へと到着する。
かなりの長旅だ。
「おい、そろそろ馬車を止めろ」
「およ? どうしてですか。ちーちゃんもまだまだ元気ですよ?」
地竜が肯定するように「ぐわー!」となく。
ふん。
「地竜は高いんだ。限界を超えて走らせ、潰れてもらっちゃ困るんだよ」
するとエリスがニマー、と腹立つ笑みを浮かべる。
シロもそれをまねてか、ニマーっと笑う。
「ダーリンってば素直じゃないんだから」
「おにいちゃんは、ツンデレ!」
「そうそう。ちーちゃんが疲れないように、休憩取ろうって言いたいのに」
「ねー」
……うざい女どもだ。
「いいから止めろ」
「「へーい」」
ちーちゃんが足を止める。
「よく水飲ませておけよ」
「あいさ!」
エリスが御者台から降りて、魔法で水を出し、地竜に水分補給させる。
そのときだった。
「…………」
子供の魂がこちらに近づいてくるのがわかった。
さらに、その背後から複数体の魔物がついてくる。
ちっ……めんどくさい。
俺は一人竜車を離れる。
「ダーリン? どうしたの?」
このアホにはちーちゃんの世話を任せてる。
俺一人で行ってサクッと倒してくれば良いか。
「なんでもねえ。おまえここで待ってろ」
「? はい!」
俺は一人子供のほうへ向かおうとする。
つんつん、と誰かが俺の背中をつついてくる。まあ、魂を感知できるので、誰なのかわかるんだが。
『お兄ちゃん? 乗る?』
フェンリル姿のシロがそばにいた。
「あ? 乗るってなんだよ」
『エリスお姉ちゃんいってたの。多分お兄ちゃん、また人助けしにいこうとしてるって。しろに、乗っけてあげてって』
……あのアホは、アホに見えて、本物のアホじゃないところが厄介だな。
ここでシロに戻れと言ったら、送り出してくれたエリスの厚意をむげにしちまう。彼女のことを傷つけるのは……嫌だった。
「乗せろ」
『はいっ!』




