311.
草むらの奥から、低い唸り声が響いた。
「ぐるるるるぅぅぅぅ……」
姿を現したのは、額に美しく輝く宝石の角を生やした、犬のような姿の魔物だった。
それを見た瞬間、エリンの顔色が変わる。彼女はスッと息を呑み、ジリッと後ずさって極度の警戒態勢に入った。
「あれが、宝石獣……! 下位のやつだけど、絶対に油断しないで!」
震える声で警告するエリンのただならぬ反応を見て、俺は眼前の魔物が相当な脅威であると予測を立てる。
改めて宝石獣を観察してみると、確かにただの獣ではない。無駄のない筋肉の付き方や、隙のない重心の置き方、そして魔力を含んだ瞳の輝き。あれは「なかなかやる」個体だと、俺の長年の戦闘における経験則が告げていた。
だが、そんな緊迫した空気を全く気にしていない能天気なやつが約一名。
「なんだ、図体も小さいし弱っちそうっすね! あにき、ここはぷちがやるっす!」
「おい、待て」
俺の制止も聞かず、ぷちは短い足で地面を蹴り、勇猛果敢に宝石獣へと突進していった。
「うぉおおおっ!」
ドゴォッ!
ぷちの渾身の体当たりが宝石獣の横腹にクリーンヒットする。だが、魔物は避ける素振りすら見せず、その場から一歩も動かなかった。
「ぶつかっても、びくともしないっす! なんて固いんすか!」
ぷちが涙目で自身の頭をさすった、その直後だ。
パキパキパキッ……。
「ほえ?」
奇妙な音が鳴り、ぷちの短い腕の先から徐々にキラキラと輝く結晶へと変化し始めた。
「フェえええええええええええええええええ!?」
ぷちが絶叫を上げるが、結晶化の波は止まらない。あっという間に全身が硬質化し、数秒後には、ぽっちゃりとした竜の形をした巨大な宝石の置物が完成してしまった。
「これが宝石獣の恐ろしいところよ……!」
エリンが青ざめた顔で解説を入れる。
「奴らの体に直接触れると、こうやって問答無用で宝石に変えられちゃうのよ。あの子、迂闊に殴りかかったから……」
「なるほどな」
俺はため息をつき、宝石と化したぷちの前にしゃがみ込んだ。
そして、自身の持つ絶対的なスキル【無】の概念を脳内でいじり、対象の異常状態をなかったことにする【無害】へと書き換えて発動させる。
すぅっ……と淡い光がぷちを包み込むと、パキパキと音を立てて宝石が元の鱗と肉体へと戻っていった。
「ふはぁっ! し、死ぬかと思ったっす!」
「次からは勝手に飛び出すなよ」
「はいっす……」
俺がぷちの頭を軽く叩いてたしなめていると、背後でエリンが目玉が飛び出んばかりに驚愕していた。
「はぁあっ!? な、なんで元に戻ってるのよ! あれは一度かかったら絶対に直せないはずなのに!」
「俺のスキルだ。気にするな」
絶対に直せない呪いすらも一瞬で無効化する俺のデタラメな力に、エリンは口をパクパクと開閉させ、完全に言葉を失っているのだった。
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