306.
ぷちを客室のベッドに寝かせた後、俺はエルザードと向かい合ってソファに腰を下ろした。
出されたハーブティーからは、森の若葉のような清涼な香りが立ち上っている。
俺は一口啜って喉を潤すと、単刀直入に自身の素性を明かした。
「俺は召喚者だ。ある『女神』によって、異世界からこの地に喚ばれた」
隠すことでもない。
それに、長命なエルフの長ならば、過去の召喚者に関する情報を持っているかもしれないと考えたからだ。
だが、エルザードの反応は予想外のものだった。
「ふむ……? ショウカンシャ、とな?」
彼は不思議そうに首を傾げ、その単語を咀嚼するように繰り返す。
「異世界から召喚された者のことだ。知ってるだろ?」
「……ふむ、長く生きてきたが、そのような存在は初耳だ」
「なんだと……?」
俺は眉をひそめた。
この世界において「異世界人」や「勇者召喚」は、御伽噺レベルとはいえ周知の事実だと思っていた。
ましてや、博識そうなエルフの長が知らないはずがない。
こいつ、惚けているのか。
『主よ』
腰に差した妖刀が、脳内に直接念話を響かせる。
『どうやら、本気でそう思っているようだぞ。呼吸、脈動、発汗、瞳孔の動き……。生体反応に嘘の兆候はない』
(……マジか)
妖刀の感知能力は嘘発見器より正確だ。
つまり、エルザードは本当に「召喚者」を知らない。
これは妙だ。
歴史から消されているのか、それとも俺の認識が間違っていたのか。
背筋に冷たいものが走る。
この世界の常識そのものが、どこか歪んでいるような違和感。
「……召喚者について、本当に何も知らないのか? 古い伝承や書物にも残っていないのか?」
「そうさな……。私の記憶にはないが、あるいは……」
エルザードは顎髭をさすり、視線を窓の外へと向けた。
「我が国が管理する『大図書館』になら、神代の叡智を記した書物が眠っているかもしれん。そこには、王族ですら閲覧できぬ禁書も数多くある」
「大図書館か」
情報の宝庫。
そこへ行けば、俺がこの世界に呼ばれた理由や、女神の正体についても手がかりが得られるかもしれない。
「その図書館を使わせてくれ。俺自身のルーツを知りたい」
「断る」
エルザードは即答した。
「あそこは聖域だ。エルフの中でも、ごく一部の上位種族しか立ち入りは許されていない。ましてや、どこの馬の骨とも知れぬ人間を入れるなど、掟が許さんよ」
「入れろ。……何が望みだ」
俺は彼の翡翠色の瞳を射抜くように見据える。
この古狸は、ただ拒絶したわけではない。
情報をチラつかせ、こちらの興味を引いてから「壁」を提示する。
それは交渉の常套手段だ。
「俺に何かをやらせようとしているんだろう? 言ってみろ」
「ククッ……。話が早くて助かるよ、旅の者」
エルザードが口元を歪め、初めて支配者としての鋭い相好を崩した。
彼は懐から一枚の地図を取り出し、テーブルの上に広げる。
指差したのは、里の北側に広がる深い森の奥地だ。
「貴殿の力を見込んで頼みがある。……この森に巣食う『魔物』を討伐してほしいのだ」
【おしらせ】
※2/11(水)
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