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29.賢者に気に入られる


 俺とエリスはボスの部屋で、賢者を名乗る爺さんの幽霊と出会った。

 爺さんに招かれて俺たちは小屋の奥へと進んでいった。


 小屋の中はえらい広かった。

 あきらかにおかしい。外から見た時は小さな建物だったのに、普通に2階があるし、部屋数も結構ある。


『ここはわしが魔法で作った特別な小屋。賢者の小屋じゃ』

「賢者ね……」


 魔法で作られた特別な小屋は、小屋とかいう割にものすごい広い。


「だーりんすごいです! お風呂ありますよ! 湯船もシャワーも!」

「! ま、まじか……!?」


 俺は風呂場を覗く。

 すげえ、スーパー銭湯の何倍もデカくて豪華な風呂があった!


 しかもシャワーがあって、それは現実にあるものの形をしていた。 

 水栓を捻ると、暖かいお湯が出てくる。


 本物の風呂だ。


「これもあんたが? お湯も?」

『そうじゃ。魔法で作った』


 ……魔法で作ったね。

 魔法ってなんでもつくれるんだな。


 するとエリスが体をふるふると震わせていう。


「もしかして、そこの賢者さまは……【創造の大賢者ジョン・スミス】では!?」

「そうぞうの、だいけんじゃ……?」


 なんだそれは?


『いかにも。わしがジョン・スミスじゃ。とそこの可愛いらしいガールフレンドに伝えてくれ』

 

 爺さんことジョンはこの世界の言葉を喋れないらしい。

 ジョンの言ったことをエリスに伝えると、彼女は目を輝かせた。


「すごい! 神話の時代に活躍した、偉大なる魔法使い様とあいまみえることができるなんて! なんて幸運なんでしょう!!!」


 エリスだけ勝手に盛り上がってるのがなんだか嫌だった。


「エリス。なんだよ、創造の大賢者って。そんなすごいやつなのか?」

「そうですよだーりん。太古の昔、世界が闇に沈みかけたその時、天より遣わされたのがジョン・スミス様です。彼の使う創造魔法はゼロからあらゆるものを作り、世界を救ってみせた、と神話に残っています」


 エリスが目をキラキラさせながらいう。

 こいつにとって、この話は大好きなお伽話なのだろう。


 だが、爺さんの表情を見ればわかる。

 伝承と事実は違うんだってな。


「爺さんが大昔にかつやくした、すごい魔法使いってことはわかったよ。じゃあ、なんであんたはこんなとこに閉じ込められてたんだ?」


 この小屋はボスモンスターの寝床、マグマの真下にあった。

 どうやっても脱出できない場所で、この爺さんは閉じ込められていた。


 大昔に大活躍したこの爺さんが、どうして?


『わしは女神にとって、不都合な存在となってしまったからじゃよ』

「不都合な存在?」


 爺さんが辛そうな顔をしていう。


「わしは女神に召喚され、こちらの世界でとある貴族の子供として生まれた。わしには魔法の才能があった。魔法を極め、そしてわしは創造魔法を、ゼロから1を作り出す魔法を作り上げた。人々はわしを、神と呼んだ。それ……女神の癇に障ったようでな。わしは、気づいたらこの奈落に捨てられていた」


 ……なんだよそれ。


「女神は自分こそが唯一の神と思われたいようじゃった。それゆえ、神のごとき力を持つわしが目障りだったのだ」

「……で、今日までここにいたってことか?」


「うむ」

「逃げようとしなかったのか?」


「逃げたかったさ。しかし、わしはマグマの下に埋められた。そのうえ、頭上には凶悪なボスモンスター。逃げたくても逃げられなかったのじゃ」


 つまり、なんだ?

 この人は女神に嫌われたから、女神の企みで、こんなくそったれな場所に捨てられたと。


 女神にとって目障りな人間、歯向かう人間は、ここで死ぬように、女神に運命をねじまげられちまうってことか。


「冗談じゃねえ」

『……小僧?』


「あのくそったれ女神のやつに、運命なんて決められてたまるかよ!」


 爺さんの話を聞いて確信した。

 あのくそ女神には、一発ぶちかましてやらねえといけないってな。


『……神を恐れぬか』

「ああ。俺には、【無】のスキルがあるからな」


『【無】?』


 俺は軽く俺の持つスキルについて説明。

 そして、神に一発ぶちかますための策をいう。


『! 確かに、それを使えば神は、殺せるかもしれない』

「だろ? だから、なんとしてでも俺は、あのくそったれ女神の前に行かないといけないんだ」


 俺は爺さんに手を伸ばす。


「あんたの仇を打ってやる。だから、手を貸せ」


 爺さんは死んでしまっている存在だ。

 でも、その魂は今ここにある。


 魂が残ってるのは未練があるからだろう。

 未練とはすなわち、自分をこんな状況に追い込んだ元凶、女神への復讐だ。


 俺は別に爺さんに同情したわけじゃない。

 ただ、同じ目的を持つもの同士なら、手を取り合えるって思ったんだ。


『……なんて男だ。神を恐れぬどころか、神を殺すか。面白い男よ!』


 にっ、爺さんが笑う。


『わかった。おぬしに力をかそう。創世の大賢者たる我が、遺産を、すべて、おぬしに譲渡する』

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