259.陰陽師
上松を無力化に成功した。
「あらら、負けちゃったね。せっちゃん」
島内はニコニコしながら、こちらにやってくる。
彼は懐から符を取り出す。
符を口にくわえて、フッ……! と吹き出す。
すると符はムクムクと大きくなっていき、人形へと変化した。
ボーリング玉くらいの大きさだ。
手足がきちんとあるんだが、顔や口と言ったパーツはない。
「なっ!? なんだそれは!? ま、魔法か!?」
無一郎が驚愕する。
一方、島内は言う。
「どっちかというと陰陽術だねー」
「れいのうりょく……?」
「そ。ぼく、陰陽師だから」
「陰陽師……?」
……また新しい単語が出てきたな。
「陰陽師っていうのは、陰陽術を使うものの総称だよ。陰陽術っていうのは、占いとか、結界とか、そういうの」
安倍晴明とかそういうやつか……。
「この人形は、式神。符に霊力をこめ作った、使い魔だよ」
式神は上松を持ち上げると、わっせわっせ、と運んでいく。
ベンチに乗っけてあげる。
……俺は黒衣を上松にかけてやった。
このままじゃ寒いだろうからな。
「やっぱり、君は、優しいね」
島内は指を鳴らす。
一瞬にして、元の公園に戻った。
さっきまで、雪女の異能で吹雪いていたはずなのに。
地面には雪のひとかけらすら残っていない。
「これも陰陽術ってやつか?」
「そう。結界だね」
……式神といい、結界といい、まじでこいつ異能者だったのか。
「君も異能者なのかい?」
と無一郎。
「異能者とはちょっと違うかな。異能って生まれ持ったものでしょ? ぼくら陰陽師は、陰陽術……つまり技術を後天的に身につけた人たちのことだから。まあ、一部例外……天才はいるけど」
島内は陰陽術を、努力して手に入れた口ってわけか。
「それに、やっぱりってどういうことだよ」
「占いで、ちょっと見てたからね。君らが、せっちゃんに接触する姿が」
……なるほど。
こいつ、最初からここに俺らが来るの、わかっていやがったのか。
最初はとぼけてたけども。
それに……未来を見れるというのに、上松と俺とを戦わせた。
そして……こいつに動揺は見られない。つまり……。
「おまえ……上松が負けるのわかってたな?」
「そうだね。まあ、正確にいうと、君が倒れてるせっちゃんに、コートを掛けてあげてる姿が見えたんだ。そこで、わかったんだ。ああ、この人……悪い人じゃあないって」
……性格の悪い男だぜ、こいつは。
自分の女が負けるってわかってて、戦わせたんだからよ。
「正確な未来が見える訳じゃあないから、ぼくもね」
「そうなのか?」
「うん。あくまで占いの範疇だから。見える未来も、断片的なものだし、変わることもある」
未来が変わることがある……ということは、変えることもできるわけだ。
……なんとなくだが、上松が怪異に遭遇してこなかった理由がわかった。
「悪いけど、せっちゃんを家に運ぶの、手伝ってくれる?」
「ちっ。仕方ねえな。おい無一郎。車回してこい」
はいはい、と無一郎は公園の外に出る。
やつからしても、異能者の上松、陰陽師の島内、どっちも欲しい人材だろうからな。言うことを聞くんだろう。
「でも……良かったのかよ、島内」
「なにが?」
「負けるとわかってる戦いを、好きな女にさせて」
「ああ……。うん。そうだね。でも、ほら、せっちゃんの寝顔見てよ」
上松は……のんきに寝息を立てていた。
とても満ち足りた顔をしてる。
「せっちゃんは、ズッと求めてたんだ。力を全力で振るえる先をね」
「……なら、怪異と戦わせりゃよかったじゃあねえか」
「できないよ」
「なんでだよ?」
すると、ニコッと笑って言う。
「だって手加減できる君と違って、怪異はせっちゃんを本気で殺そうとするだろう?」
……あ、そう。




