237.むかつくじーさん
「じーさんは、あっちに帰りたいっておもわないのか?」
開田のじじいは俺と同じ帰還者。
向こうに行ったことあるやつだ。
……どれくらいの期間いってたかしらんが、俺と同じで、向こうで生活を送っていたのだろう。
だとしたら、あっちでいい人とかもいたのかもしれない。
となると、帰りたいって、思うのは必然だと思うんだが。
「特にないな。わしがあっちにいっていた期間はあまりに短い。傷が癒えるまでじゃった」
本当にいって、かえってきただけっぽい。
「でも……そうさな。山の女神さまに、お礼を言いたいかな。わしを助け、ここまで育ててくれたのは、カノジョが居たからじゃし」
「そっか……」
このじじいも俺と同じで、向こうに行きたいという思いはあるようだ。
なら……。
「じじい、俺に手を貸せ」
「どういうことじゃ?」
「俺は、向こうに帰る手段を作ろうとしてる」
「!? ど、どういうことじゃ……?」
こいつに目的がバレたところで、俺の邪魔をできるとは思えない。
『我も同じ意見だ。この老人からは、特別なチカラを感じはするが、戦闘力で言えばおまえさまの足下にも及ばん。いざとなれば処分すればいい』
まあ、そういうことだ。まあ、殺しはしないがな。零美が悲しむし。
『やはり優しいなぁ、おまえさまは』
うるせえよ。
「で、話し戻るけど、俺はあっちに帰りたいんだ。あっちに……大事な人残してしまってるからよ。世界扉っていう、魔道具を作ろうとしてる」
「世界扉……」
「あっちとこっちを行き来する魔道具だ。そんためには、工房や、道具が必要なんだ。じじい、手を貸せ」
するとじいさんはニコッと笑う。
「わかった、用意しよう」
「……ずいぶんあっさり了承するんだな」
「うむ。将来の孫娘の、結婚相手の頼みじゃからな!」
……そっちかぁ。
「だからさ、じいさん。俺は零美とは付き合えないって。さっきいったろ? 大事なひとがいるって。俺はその女の子とが好きなんだよ」
「? だから?」
だ、だから……?
真顔で言われてしまった。
「おぬしの心に零美がいない。なるほど。それはわかった。でもそれは今ということじゃろう?」
「いやこの先もないから」
「先にことなどわからんじゃろうて? それとも、未来を見るチカラでもあるのか?」
……ない。
じいさんは俺の顔を見て笑う。
「わしにはあるよ。そして、わしには見えてる。孫がおまえさんのハーレムパーティに加わってる姿をな」
……まじかよ。
このじいさん、未来が見えるのか。そりゃ、こっちで莫大な財をきずけるわな……。
いや、零美をハーレムにいれるつもりはないからな。絶対に。確実に。100%、ない。
硬く心に誓っても、じしさんのムカつく笑みは崩せなかった。チクショウ。




