210.宿
追っ手を撃破した後……。
俺たちは長野の南、木曽ってところにやってきた、んだが……。
「なんだこりゃ……」
なんというか、めちゃくちゃ閑散としていた。
家は、ある。民家はあるんだ。でも……外を出歩いてるやつはほぼいない。
木曽は隣に、木曽川っていう川が流れており、そこが削った平地に人が住んでいる。
左右にデカい山があるせいで、日が出ている時間が少ないらしく、夕方前だってのに薄暗かった。
「サイガ君っ。宿を取っておいたよ!」
「宿……?」
「もう暗いだろう?」
「まあそうだけども」
どうするか。移動だけで結構時間がかかってしまったようだ。
ふむ……。
どうせこいつ、俺の後を着いてこようとするだろう。
となると、今動くより、夜寝静まった後に移動した方が良いな。
そのほうが、こいつが後をおかっけてきて、こいつを危険にさらさずにすむ。
『ナチュラルに善人よな、おまえ様よ』
黙れ。
「そうだな。疲れたし、宿で休みたい」
「了解だっ」
駅前にある、ご立派な旅館へと移動する俺たち。
中に入ると……。
「「「「いらっしゃいませ!」」」」
従業員全員が、玄関口に集まって頭下げていた。
まあ……そうだよな。こいつ良いところのご令嬢だもんな。
「さぁ、どうぞ! 一番上等な部屋をご用意しております!」
女将らしき女が、なんか気の毒になるくらい、ペコペコ頭を下げている。
まあそんだけ金持ちの孫だもんな、零美。
零美はそんな態度をとられて、「そんな恐縮しないでくださいっ」と気さくに言っていた。
無茶言うな。
ほどなくして、俺たちは確かに広い和室に通される。
……いや、おかしいな。
「おい」
「なんだいサイガくん?」
「部屋が、一部屋しかないんだが?」
別々に部屋がとってあると思ったんだが?
「? どうして?」
「どうして!?」
「わたしはサイガ君と将来を供にしたいとおもってる女だぞ?」
「だからなんだよ!?」
「同衾したいに決まってるじゃあないかっ」
一緒に寝たいとか思ってるらしい……。
や、やばぁ……。
昨日今日あったばかりの男だぞ?
しかもどう見ても怪しいやつだぞ?
「倫理観どうなってるのおまえ……?」
「強い漢と、結ばれたい! ただそれだけさっ」
……ああ、駄目だ。
あのじーさんの孫だ、こいつ……。やっぱ孫もじじいもちょっとアレだわ……。




